タイタンの湖水に液体のエタンを検出
【2008年8月11日 JPL】
土星の衛星タイタンの表面にある湖は、確かに液体をたたえているようだ。液体といっても地球のようにH2Oの水ではなく、有機化合物であるエタンが液体で存在している。タイタンの湖は地球の水辺の風景とよく似ているに違いない。
NASAの土星探査機カッシーニは、これまでに40回を超えるタイタンへの接近観測を行っており、かつて想像されていたような広大な海は存在していないことを明らかにしている。また、レーダー画像からは数百もの湖のような場所があることもわかってきている。2007年12月4日の38回目の接近時には、その湖のひとつでスペクトルが得られ、表面が平らというだけでなく、初めて化学組成に関する情報がもたらされた。米・アリゾナ大学教授のRobert H. Brown氏らによる解析結果は2008年7月31日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載された。
スペクトルが得られたのは、タイタンの南極近くにある、日本の四国よりも広い面積をもつオンタリオ湖(Ontario Lacus)と呼ばれる湖。カッシーニに搭載されたVIMSという分光マッピングを行う観測機器で大気の影響を受けにくい波長域を観測したところ、エタン(C2H6)に特徴的なスペクトルが検出された。また、波長によって反射率が大きく違うことから、液体であると解釈されている。エタンは地球では通常は気体だが、低温環境であるタイタンでは液体で存在することができる。湖を満たしている液体はエタンだけでなく、メタン(CH4)や窒素、ほかの炭化水素も存在していると考えられている。
タイタンを可視光で観測しても大気に炭化水素のもやがかかっているため、表面のようすは見ることができない。表面状態は電波の反射強度で把握されているが、平面的な場所では電波が鏡のように反射して探査機に返ってこないためレーダー画像で暗く写る。レーダー画像をわかりやすく示すために、でこぼこの陸地を黄色く、平らな場所を青く着色した画像には、地球の湖にそっくりな形が多数浮かび上がっていた。しかしながら、平らなのは液体がたまっているからなのか、それとも何らかの平滑な固形物だからなのかは、レーダー画像だけでは判別することができていなかった。そこに何があるのか、証拠をつかんだのはVIMSによる赤外スペクトルだ。
タイタンは地球とは温度や物質が異なるが、風景は地球とよく似ている。もやがかかり、雨が降り、浸食地形があり、表面に液体をたたえている。空から大地へエタンやメタンが供給され、湖から空へも蒸発している。物質が循環しているということは、タイタンがシステムとして生きている証とも言えるだろう。有機化合物が集まるタイタンの湖は、将来的に生命の存在を探査する候補地としても注目される。