「あかり」のデータが全天赤外線地図に
【2008年11月19日 宇宙科学研究本部 トピックス】
JAXAの赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)が行った全天観測の成果が、1つのカタログにまとめられた。赤外線天体の位置と複数の波長での明るさをまとめたもので、いわば赤外線の地図帳、または住所録のようなもの。従来にくらべ約3倍の情報量になった。
赤外線天文衛星「あかり」は2006年2月に打ち上げられ、遠赤外線および中間赤外線で、全天をくまなく撮影する「サーベイ観測」と特定の天体を詳しく調べる観測を1年以上にわたり続けてきた。
「あかり」の重要な目標は、全天サーベイによって詳細な赤外線天体カタログを作成することだった。現在広く使われている赤外線天体カタログは、1980年代に観測を行った赤外線天文衛星IRASのデータ。「あかり」はその約3倍の天体(中間赤外線で約70万個、遠赤外線で約6万4000個)を観測した。
今後はカタログの解析とともに改良も進められ、1年後には世界中の天文学者に向けて公開される予定だ。
一方、特定の天体を詳しく観測したデータの解析も行われ、重要な成果が得られている。
ベテルギウスと星間物質がつくる衝撃波
「あかり」は、地球から約640光年の距離にあるオリオン座の1等星ベテルギウスを観測した。その結果、ベテルギウスを取り囲むように広がる、弧状に光る構造が明らかになった。この構造は、ベテルギウスの周囲にある物質と宇宙空間を流れる星間物質とが衝突してできた弧状衝撃波(バウ・ショック)と考えらえている。
この発見は、星でつくられた物質が最終的にどのような状態で宇宙空間に放出され星間物質と混ざり合っていくのかという、星間物質の進化などに関する重要な情報の1つとなった。
球状星団で、星と星の間が「空っぽ」
球状星団とは、10万から100万個の星が球状に集まった星の集団で、われわれの天の川銀河を取り囲むように存在している。その中の星は、100億年ほど前ほぼ同時に生まれたと考えられている。寿命の短い、重い星たちはすでにその生涯を終え、現在では太陽と同じくらいの質量の星が老齢の赤色巨星に進化している。それら年老いた星は、次世代の星を作る材料である、大量のガスやちりを宇宙空間に放出する。
しかし、「あかり」による観測で、球状星団に含まれる星と星の間が「空っぽ」であることが確かめられた。年老いた星が放出したちりがどこへどのように消えていったのかは、大きななぞである。
「あかり」が探る大マゼラン雲の超新星残骸
地球から約16万光年の距離にある大マゼラン雲には、これまでに約40個の超新星残骸が見つかっている。「あかり」による観測で、そのうちの8つが赤外線で明るく輝いていることがわかった。
赤外線で見た超新星残骸は、いずれも球殻状である。これは、爆発の衝撃波が周囲の星間物質を押しのける過程で暖められたちりが放つ赤外線を観測しているからだ。衝撃波はちりの大部分を破壊してしまうと考えられていたが、高温のちりが放つ赤外線が予想以上に強いことから、「生き残り」のちりが多いことが示唆される。
データの詳しい解析により、超新星残骸や、超新星爆発が周辺の星間物質に与える影響についての理解が飛躍的に進むと期待されている。