塩から探る、エンケラドスの海

【2009年6月29日 ESAUniversity of Colorado at Boulder

土星の衛星エンケラドスから間欠泉のように噴き出す蒸気は、地下に海が隠れている証拠だろうか? 水と一緒に放出される塩に着目した研究者からは、肯定と否定、両方の意見が出ている。


(土星のE環と氷を噴出すエンケラドスの画像)

土星のE環と氷を噴出すエンケラドス。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Space Science Institute)

(エンケラドスから噴出する蒸気や氷の結晶の画像)

エンケラドスから噴出する蒸気や氷の結晶。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Space Science Institute)

NASAの探査機カッシーニは、氷に覆われた衛星エンケラドスの南極付近に割れ目があり、そこから蒸気や氷の結晶が噴出しているようすをとらえた。地球の火山の下にマグマがあるように、エンケラドスの地下には大量の液体の水(海)があるのではないかと注目を集めている。

噴出の根元を掘ることはできないが、噴出物の行方を追うことで海の証拠が得られるかもしれない。6月25日発行の科学雑誌「ネイチャー」に掲載された2つの論文は、土星周辺に広がったエンケラドスの放出物に含まれる塩化ナトリウム(食塩)から海について考察した。

欧州の研究チームは、カッシーニが土星の「E環」から塩化ナトリウムを検出したと発表した。土星の環で一番外側にあたるE環は、エンケラドスから放出された氷の粒やちりで形成されている。研究チームによれば、塩化ナトリウムはエンケラドスの地下で大量の水に溶け込み、水とともに噴出した。地表の氷が昇華(固体が液体にならず、いきなりガス化すること)しただけでは、E環で見つかった塩化ナトリウムの量を説明できないという。

さらに、E環からは炭酸塩も検出された。海に二酸化炭素が溶け込むことで形成される物質だ。研究チームの一員で独・マックスプランク研究所のFrank Postberg氏によれば「海があったとすれば、(エンケラドスの)南極表面付近の温度や噴出物から有機物が検出されたことを考えると、そこは生命の前段階を形成するのに適した環境かもしれません」。

一方、米・コロラド大学ボルダー校の研究チームが発表した論文は海の存在に否定的だ。チームは地上の大型望遠鏡で土星周辺を観測したが、ナトリウム特有の光を検出することができなかった。

同校大気宇宙物理研究所のNicholas Schneider教授は「噴出が海からの間欠泉であればおもしろいのですが」と述べつつ、地下深くの空洞から水がゆっくり蒸発しているのが噴出の正体ではないかとしている。「蒸発が爆発的に起きたときのみ、多量の塩化ナトリウムが加わるのです」

Schneider教授はほかのメカニズムも列挙しつつ、こう指摘している。「これらは全部仮説であり、現状ではどれ一つとして確かめようがないのです。すべてが食えない話ですから、塩でも振りかける(疑ってかかる)べきです[We have to take them all with, well, a grain of salt.]」