「WISE」がとらえた、巨大な星雲や長い尾を引く彗星
【2010年2月24日 NASA Mission News】
赤外線天文衛星WISEが今年1月から開始した全天観測でとらえた画像が公開された。爆発的に星形成が進む巨大な星雲の中心や長い尾を引く彗星、リング状に幾重にも取り巻くアンドロメダ座大銀河の腕などを見せてくれている。
星雲の中心に見るカオス
この画像は、りゅうこつ座の方向約2万光年の距離にある星雲NGC 3603をとらえたものだ。中心領域の拡大図は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による可視光画像である。HSTが星雲の中心にある高温の若い星の集まりを詳細に見せてくれるのに対し、WISEの画像には、その2500倍以上も広い領域がとらえられており、高温の星が周囲にどんな影響を及ぼしているかのを見せてくれる。
星雲には、これまでに知られているなかでもっとも質量の大きい星が存在している。緑色に見えているのは星雲の周囲を取り巻くガスで、大質量星は、そのガスに影響を及ぼして星(画像中の赤い点)の形成を引き起こしている。また、星雲の中央に存在する高温のちりも大量の赤外線を放射していて、とても明るく黄色い核のように見えている。
やがて、この領域にあるちりやガスは次々と起こる超新星爆発で吹き飛ばされ、天の川銀河内のほかの星形成領域と同じように、たくさんの空洞やふくらんだ泡のような構造が見られるようになると考えられている。
宇宙で最初に誕生した星は大質量であったと考えられている。そのため、このような星雲を観測することは、初期宇宙の理解に役立つ。また、銀河同士の衝突で引き起こされる爆発的な星形成の研究に役立つ情報も得られる。
太陽系の果てからやってきた来訪者
WISEの赤外線の目は、長い尾を引くサイディング・スプリング彗星(C/2007 Q3)もとらえた。この彗星は、2007年に豪・サイディングスプリング天文台で発見され、2009年10月に地球から約1.2天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離、約1億5000万km)、太陽から2.25天文単位の距離にまで近づいた。
画像中、赤(擬似カラー)が長い波長の赤外線、青(擬似カラー)が短い波長の赤外線に対応している。冷たい天体ほどより長い波長の光を放射しており、彗星全体は背景の星に比べ何十倍も低温なため赤く見えている。
彗星は、太陽系が形成された45億年前ころのタイムカプセルのようなものと考えられている。生まれ故郷である太陽系の端にある「オールトの雲」からやってきて、太陽に近づくと温められ、氷とちりの長い尾を引くようになる。しかしその姿は太陽から離れていくにつれて再び見えなくなる。
WISEは全天をくまなく観測しながら、地球に接近する彗星の大きさや組成、反射率、中心核をとりまくちりの粒子の大きさや成分に関するデータも取得する。そのデータは、太陽系の進化に関する研究に役立てられる。
天の川銀河のお隣さん
アンドロメダ座大銀河は、太陽から約250万光年の距離にある、いわばわたしたちのお隣の銀河である。
画像中、黄色と赤(擬似カラー)で示されているは、生まれたばかりの大質量星によって温められているちり、青(擬似カラー)で示されているのは成熟した星だ。若い星がひしめくリング状の腕が赤や黄色のまばゆい姿を見せている。一方、年老いた星でできている構造は、青いかすみのように見えている。また、2つの伴銀河M32とM110は、それぞれアンドロメダ座大銀河のほんの少し上方と渦巻く腕の中央部下方に見えている。
アンドロメダ座大銀河は、天の川銀河より大きく星の数も多い。しかし、目に見えないダークマターの質量では、天の川銀河の方が大きい可能性が指摘されている。両銀河は、50個ほどの銀河の集まり「局部銀河群」に属しているが、全天マップ作成にあたり、「局部銀河群」の銀河もWISEによって観測される。