地球に降り注ぐ宇宙線の生成プロセスが明らかに
【2010年8月12日 数物連携宇宙研究機構(IPMU)】
今年初め、ピエール・オージェ観測所のデータから、予測に反して宇宙線の多くが陽子ではなく原子核であることが発表された。陽子に比べて壊れやすい原子核がどこでどのように加速されて、大量に地球に降り注いでいるのかはなぞであったが、同観測所のデータの解析結果から、そのメカニズムが明らかになった。
ピエール・オージェ観測所は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの西方約1100kmのアンデス山中にある大規模な宇宙線測定装置である。
同装置を構成しているのは、約3000平方kmの広大な敷地内に設置された、チェレンコフ光を検出するための超純水が入った1600個の検出器と、4箇所に6台ずつ配置されている大気蛍光検出器である。観測所の名前は、大気中に大量の二次宇宙線粒子(宇宙から直接やってくる粒子である第1次宇宙線粒子が大気と作用して発生する粒子)があることを1938年に発見したフランスの科学者にちなんで付けられた。
従来、超高エネルギー宇宙線の起源は遠方の銀河にあり、陽子を加速できるような巨大ブラックホールから飛来すると考えられてきた。ところが今年初めに、ピエール・オージェ観測所から驚くべき報告が発表された。
その内容は、高エネルギー宇宙線の多くが陽子ではなく原子核であり、高エネルギーになるほど陽子に比べて原子核の割合が多くなるというものだった。
原子核は陽子に比べて壊れやすく、長く宇宙空間を旅する間に陽子に壊れるだろうと考えられてきたため、この報告は研究者を驚かせた。超高エネルギー領域における宇宙線加速のメカニズムを考えても、陽子より原子核が選択的に加速されることはとても考え難いのである。
米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のAntoine Calvez氏、同大学の教授であり数物連携宇宙研究機構(IPMU)の研究者であるAlexander Kusenko氏、京都大学基礎物理学研究所の准教授 長滝重博(ながたきしげひろ)氏は、そのなぞを解いたと発表した。Kusenko氏らは、ピエール・オージェ観測所のデータを解析し、天の川銀河の中で原子核を加速するプロセスが進行している証拠をつかんだという。
そのプロセスは次のようなものだ。天の川銀河で起きる星の爆発は陽子と原子核両方を加速する。陽子はすぐに銀河から出て行くのに対し、より重くて動きの鈍い原子核は銀河内に渦巻く磁場にとらえられて、陽子に比べてより長い間銀河内に留まる。その結果として、銀河系内で原子核の密度が増大して、ピエール・オージェ観測所のデータが示したように大量の原子核が地球に降り注ぐことになるというのだ。
粒子を超高エネルギーにまで加速できるような重い星の爆発は、他の銀河でも見つかっており、宇宙最大の爆発である現象「ガンマ線バースト」が発生することが知られている。研究チームは、同じような巨大な爆発は天の川銀河の中でも少なくとも100万年に数回の割合で起きていたという証拠も、分析の結果から得ている。
現在観測される超高エネルギー原子核は巣のように張り巡らされた銀河の磁場に数百万年以上にわたってとらえられていたものであり、複雑な磁場内の無数の回転や反転のため、観測される方向は完全にランダムになってしまう。しかし研究チームは、他の銀河から来る超高エネルギー陽子ならば、その起源の方向が示されるはずであり、ピエール・オージェ観測所によって、重要な関連データが得られるだろうと予想している。