天の川銀河の中心から広がる、なぞの巨大泡構造

【2010年11月15日 CfANASA

NASAのガンマ線天文衛星フェルミが、天の川銀河の中心から広がる巨大な2つの泡構造を発見した。構造は銀河面に垂直に、約5万光年ほども広がっている。その正体は、天の川銀河の中心部で過去に起こった大規模な物質の放出の痕跡ではないかと考えられている。


(発見された2つの泡状構造の想像図(紫:ガンマ線を放射している領域、青:X線天文衛星レントゲン(ROSAT)がとらえた泡の境界と思われるかすかなX線放射))

発見された2つの泡状構造の想像図(紫:ガンマ線を放射している領域、青:X線天文衛星レントゲン(ROSAT)がとらえた泡の境界と思われるかすかなX線放射)。クリックで拡大(提供:NASA/GSFC)

フェルミによる全天ガンマ線マップ(銀河面から伸びるダンベルのような形をした部分が発見された泡状構造)

フェルミによる全天ガンマ線マップ(銀河面から伸びるダンベルのような形をした部分が、今回発見された泡状構造)。クリックで拡大(提供:NASA/DOE/Fermi LAT/D. Finkbeiner et al.)

NASAのガンマ線天文衛星フェルミが、天の川銀河の中心から伸びる巨大な泡状の構造を発見した。この発見を地球上でたとえるなら、新大陸の発見に相当するスケールだ。構造の広がりは銀河面に対して垂直に長さが約5万光年ほどで、地球から見るとおとめ座からつる座にまで広がっており、視直径は100度以上にもなる。また、構造は形成されてからおそらく数百万年経っていると考えられている。

泡状構造は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのDoug Finkbeiner氏と米・ハーバード大学の大学院生Meng Su氏、Tracy Slatyer氏らが一般に公開されているフェルミ広域望遠鏡(LAT)のデータを加工して発見に至った。LATは、これまで宇宙に打ち上げられたガンマ線検出器としては感度、解像度とももっとも高い。

ほかのガンマ線研究者がこれほどの構造をこれまで発見できなかった理由は、霧のように全天に広がる「拡散放射ガンマ線」のためである。この放射は、光速に近い速度で運動する粒子が天の川銀河内の光子や星間ガスと衝突することで生じる。Finkbeiner氏らは、さまざまな計算を行ってLATのデータから拡散放射を分離することによって、巨大な泡構造を発見したのである。

ただし、泡構造の存在は過去の観測データでも一部示されていた。1990年に打ち上げられたX線天文衛星レントゲン(ROSAT)は、泡の境界と思われるかすかなX線をとらえていた。また、2001年に打ち上げられたNASAのマイクロ波観測衛星WMAPは、泡構造の位置にひじょうに強い電波を検出していた。

泡状構造からの放射は、天の川銀河内に広がるあらゆるガンマ線の霧からものより、はるかにエネルギーが高い。また、泡にははっきりとした境界があるようだ。構造の形と放射の強度から、比較的急速に大きなエネルギーが放出された結果形成されたのではないかと考えられている。現在のところ、この泡状構造の形成プロセスはなぞで、解明を目指してさらなる分析が進められている。考えられる可能性の一つは、超巨大ブラックホールから噴出するジェットがこの構造に関係しているというものだ。

多くの銀河では、ブラックホールへと物質が落ち込むことによって粒子がエネルギーを得て高速のジェットとなって噴出している。天の川銀河のブラックホールが現在このようなジェットを噴出している証拠は得られていないため、過去にジェットが存在していたとも考えられる。

さらに別の可能性として、数百万年前に天の川銀河の中心領域で数多くの巨大な星団が誕生したときのような、爆発的な星形成によって起こるガスの大流出もあげられている。米・プリンストン大学のDavid Spergel氏は「ほかの銀河では、スターバースト(爆発的な星形成)現象によるガスの大流出を目にすることがあります」と述べ、さらに「この巨大な泡状構造の背後にどんなエネルギー源が潜んでいたのかはまだわかりませんが、多くの奥深い宇宙物理学上の問題と関連があると思います」と話している。