クエーサーで作る遠方宇宙の地図

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【2011年5月6日 米国ブルックヘブン国立研究所

14000個ものクエーサーを利用することにより、110億光年離れた銀河間雲に存在する水素原子の3次元分布が初めて求められた。2014年にはクエーサーのデータ数を10倍増やすことでより広域かつ詳細な地図を作成することを目標としている。


(今回作成された地図の2次元分布)

今回作成された地図の2次元分布。内側の白黒の領域は銀河系近辺の様子、赤い十字で囲まれた領域は今回測定できなかった領域、一番外側が今回測定した領域。赤はガスの量が多い領域、青は少ない領域を示す。クリックで拡大(提供:A. Slosar and the SDSS-III collaboration、以下同)

(今回作成された地図の2次元分布の拡大図)

今回作成された地図の2次元分布の拡大図。クリックで拡大

通常、宇宙の地図というと恒星や銀河といった自ら光を出すものから地図を作るのが一般的だ。しかし今回は逆に、吸収された光を見ることで地図を作成することに成功した。

これは、月を雲越しに見たときにその明るさから雲の厚さを推定することと似ている。今回の測定では月の代わりに、非常に遠方にあり銀河よりも100倍明るい天体であるクエーサーを利用した。クエーサーの光が地球に届く際、途中に存在する銀河間雲の中性水素によって特定の波長(注1)の光が吸収される。非常に遠方に存在する銀河間雲では距離によって赤方偏移の度合いが異なるため、吸収される波長は地球に届いたときには距離に応じて異なった波長に記録されている。

つまり本来吸収されるべき波長からのずれが距離を、その吸収されている度合いが銀河間雲の水素の濃さを表しており、それを様々な方向に対して測定することで宇宙の銀河間雲の地図を描くことができるのだ。

今回観測された110億光年の領域はちょうど銀河団が形成され始めた時期と考えられており、銀河団が形成されるにつれて銀河間雲も動くと考えられている。コンピューターシミュレーションによってこの銀河と銀河間雲の動きを再現したところ、その結果と今回観測された地図がよく一致していることもわかった。

クエーサーはBOSSのサーベイ結果を利用している。BOSSによる観測は2014年に終了する予定で、終了する頃には今回用いた14000個のクエーサーの10倍にあたる14万個ものクエーサーを利用することができると予想されている。これによって110億年前の宇宙の詳細な構造を探ることができるようになると期待されている。また、クエーサーは精密な宇宙の膨張率の計算にも利用できるため、2014年頃には110億年前の宇宙膨張率が数%の誤差で計測できるとも期待されている。

注1:「特定の波長」 ライマンα線と言う。赤方偏移によってこのライマンα線の吸収線がたくさん見られる波長域を「ライマンαの森」と呼んでいる。

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