「チャンドラ」がブラックホールに落ち込むガスを初めて撮影
【2011年8月1日 Chandra Photo Album / NASA】
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が、銀河の中心にあるブラックホールにガスが落ち込んでいる様子を初めて観測した。この観測から、ブラックホールがどのように成長するのか、強い重力の中で物質がどのようにふるまうかという基本的な問題の理解が進むと期待される。
これまでの多くの観測から、塵のようなものがブラックホールに落ち込んでいる様子は確認できていたが、高温のガスが落ち込んでいる様子は確認されていなかった。NASAのX線天文衛星「チャンドラ」で地球から約3200万光年離れたところにある、ろくぶんぎ座の銀河「NGC 3115」中心の大質量ブラックホールを観測したところ、ブラックホールにガスが落ち込んで行く様子を初めて撮影することに成功した。
チャンドラがとらえたのは、中心にある大質量ブラックホールから700光年のところでガスがブラックホールの重力につかまり、温度が上がっている様子だ。この重力の影響を及ぼしている距離(これをボンディ半径という)からブラックホールの質量を推定すると、およそ太陽の20億倍であることがわかった。
また、予想通りブラックホールの中心に近いところほどガスの密度が大きいこともわかった。1年間に太陽質量の50分の1ほどのガスがボンディ半径の内側に引っ張られていると見積もられている。
ブラックホールに落ち込んだガスのエネルギーがどの程度X線として外部に放出されるかを推定してみたところ、なんと今回の観測の100万倍以上もの明るさで輝くはずであることがわかった。ではなぜ、このブラックホールはこんなにも暗いのか。その理由ははっきりとはわかっていないが、2つの可能性が考えられている。
1つは、ボンディ半径の内側に流れ込むガスのうち、実際にブラックホールに落ち込む質量は見積もりよりもずっと少ないために、明るさを過大評価しているというもの。もう1つは、エネルギーがX線へと変換される効率が予想よりもずっと悪いことだ。
ブラックホールに近づいたときにどれくらいの速さでガスの密度が上がるか、その詳細な観測ができれば、この謎を解く手がかりを得ることができるかもしれない。