銀河中心ブラックホールの形成をシミュレーションで解明

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【2011年6月15日 筑波大学

銀河の中心には巨大なブラックホールがあるという説が広く支持されているが、どのようにそのブラックホールができるかはよくわかっていない。今回、筑波大学のグループが重力波の効果も取り入れた高精度な宇宙シミュレータを用いて、銀河中心の巨大ブラックホールを再現させることに世界で初めて成功した。


(ブラックホールの合体モデルのアニメーション)

1つのブラックホールが合体を繰り返しながら巨大化していく様子。クリックで拡大(提供:筑波大学宇宙物理理論研究室)

(複数のブラックホールが銀河中心で1つの巨大ブラックホールになっている様子)

複数のブラックホールが銀河中心で1つの巨大ブラックホールになっている様子。クリックで拡大(提供:筑波大学)

今回の計算に用いた「FIRST」

今回の計算に用いられた「FIRST」(提供:「FIRSTプロジェクト」ウェブサイトより)

現在の標準的な銀河の形成理論では、銀河は衝突と合体を繰り返すことで大きくなっていくとされており、現在知られているような大きな銀河を作るためには、何度も銀河の合体を経なければならないと考えられている。

また一方で、ほとんどの銀河にはその中心部分に巨大な(大質量の)ブラックホールが存在していることが広く支持されているが、複数の合体を経ているにも関わらず、1つの銀河の中に合体前の複数の銀河に存在していたブラックホールがある現場はほとんど観測されていない。銀河中心には常に1つのブラックホールしか観測されていないのは、銀河同士の合体の際に巨大なブラックホール同士も合体しているからだと考えられるが、その過程の詳細はわかっていなかった。

筑波大学の研究グループは、宇宙シミュレータ「FIRST」を用いて、一般相対性理論の重力効果も取り入れてブラックホールの合体の様子を世界最高精度で再現し、1つの巨大ブラックホールを作ることに成功した。シミュレーションでは10個のブラックホールと50万個の星を用意し、1億年の間に何が起きるのかを計算した。その結果は次のようなものだ。

まず最初の2つのブラックホールが銀河にとりこまれる。これらが運動エネルギーを失い銀河の中心に引きこまれ、お互いの回りを公転するブラックホール連星となる。やがて、とりこまれたもう1つのブラックホールが中心に近づくと、その作用で連星は一気に距離を縮め、重力波を放出して合体する。以上のプロセスを繰り返しながら、大きい方のブラックホールが独占的に連星となり合体し続けることで、ただ1つの巨大なブラックホールへと成長していく。

従来のシミュレーションでは重力の計算精度が悪かったために、重力波を放出してブラックホールが確実に合体するところまで示せていなかったが、今回初めて確実にブラックホールが合体することを示すことに成功し、多くの巨大ブラックホールが最終的に1つに合体することを示すことができた。また、これまでも銀河中心にある巨大ブラックホールの合体を扱ったシミュレーションは行われていたが、今回の高精度シミュレーションでは重力波放出で確実に合体できるところまで巨大ブラックホールの軌道を追っているため、疑問の余地なくブラックホールの合体成長を結論付けることができた。

銀河中心の巨大ブラックホールの合体という大きな謎を解くことにより、初期宇宙のブラックホールの形成に関する理論的な研究が大きく前進すると期待される。

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