太陽黒点の成長はトップダウン方式
【2012年3月9日 国立天文台】
小さなシミのように現れる太陽表面の黒点が、周囲に薄い「半暗部」を作って成長する過程が明らかにされようとしている。衛星「ひので」がとらえた半暗部のもととなる構造は、意外なことに「上空」から発見された。
黒点とその成長
太陽観察用器具を使って太陽表面を見ると、黒いシミのような「黒点」が見られることがある(参照:投稿画像ギャラリー 太陽黒点)。太陽内部で生まれた強い磁場が集まって表面に浮き上がり、その周辺の対流が抑えられて低温になった部分が暗く見えていると考えられる。この黒点が多ければ多いほど太陽活動が活発という、太陽の様子を知るためのバロメーターでもある。
この黒点を詳しくとらえたのが、日本の太陽観測衛星「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡の画像だ(画像1枚目)。太陽表面下から磁力線が浮き上がると、小さな黒い点がぽつんと現れ「小黒点」(ポア)ができる。さらに小黒点が成長を続けると、やがてその周りに「半暗部」が現れて一人前の黒点となる。だが、この「半暗部」が形成される過程については、これまでほとんど解明されていない。
半暗部の「兆候」を発見
「ひので」の観測により、磁場の浮上が大きな規模で発生し小黒点から黒点に成長する様子を約4日間にわたって連続でとらえることに成功した。その1コマが画像2枚目だ。1番左が、太陽表面(光球)に誕生したばかりの小黒点周辺。右2枚は、1番左と同じタイミングで同じ領域の約1,000km上空(彩層)をとらえた同一画像だ。1番右の画像で示されるように、小黒点を取り巻く円環状の構造が見えている。これが半暗部のもととなる構造で、時間が経つと光球上の同じ領域に半暗部が現れる。
光球と彩層部分のガス流や磁場の観測から、小黒点の磁場が上空で広がって円環状の構造となり、その広がりが光球に下がってきて「半暗部」として現れることが推測される(画像3枚目)。
今後への期待
暗部のもととなる構造がその上空の彩層で見つかるという今回の発見は、「下(光球表面)の構造が上(彩層)の構造に伝わる」のが自然、という考え方を覆すものだった。これにより、黒点の形成過程は、太陽の上空も含む立体的な磁場構造の成長過程としてとらえる必要があることがわかった。半暗部の形成についてはまだコンピュータシミュレーションでも再現に成功していないが、今回の観測から上空の境界条件を絞り込んでいくことができる。また、フレア爆発などを引き起こす活動領域の発達を予測するのに役立つかもしれない。今後、彩層の観測が進み、黒点の形成の謎が次々と解き明かされることが期待される。