赤外線で明らかになったソンブレロ銀河の二重構造
【2012年5月2日 NASA】
帽子のような形でおなじみの「ソンブレロ銀河」。実は大きな楕円銀河の中に円盤が収まった複雑な構造となっていることが赤外線観測で明らかになった。このような形状となるに至った90億年前の出来事とは?
おとめ座の方向2800万光年かなたにあるソンブレロ銀河(M104)は、平らな円盤と中心部のバルジがまるでつばの広い帽子のように見えることからその名が付けられている(画像1枚目)。この円盤がリング状なのか渦巻き状なのかは不明だが、大まかな銀河の種別としては、楕円銀河ではなく円盤銀河であることは明らかなはずだった。
だが実はこの銀河が、楕円銀河の中に円盤が収まった複雑な構造を持つことがNASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」の観測で明らかになった。可視光で見た銀河の周りの明るいハロー(球状に取り囲んでいる部分)は比較的軽くて小さいと見られていたが、ダスト(塵)に隠れた古い星までとらえた「スピッツァー」の赤外線画像から、このハローが実は巨大な楕円銀河のものに相当するサイズと質量を持っていることが明らかになったのだ。2つのタイプの構造を併せ持つ、これまで見つかった中でも稀有な例である。
この構造はどのようにして出来たのだろうか。巨大な楕円銀河が円盤銀河を飲み込んだと考えがちだが、このケースでは円盤の構造が崩れてしまうため可能性は低いという。
1つ考えられるのは、90億年以上前、楕円銀河にガスが大量に供給されて作られたというシナリオだ。この頃の宇宙にはガス雲が網の目のように広がり、その一部は銀河の成長源となっていた。重力によって引き込まれたガスが銀河中心核の周囲を渦巻き、平らな円盤を形成する。そしてその円盤のガスを材料として星が形成されたというのである。
「このシナリオには様々な疑問が残ります。大質量の楕円構造の中で大きな円盤がどうやって形成され、存続したのか。そしてこのような形成過程はどのくらい稀なものなのか、といったものです」(ヨーロッパ南天天文台のRubén Sánchez-Janssen氏)。
これらの疑問は、銀河全般の進化を理解するヒントにもなる。ソンブレロ銀河と同様の例として「ケンタウルス座A」があるが、その円盤には星の数が少なく、ソンブレロ銀河のようになる手前の段階にあると推測されている。
一方で、今回の研究で解消された疑問もある。通常、楕円銀河に多く見られ、渦巻き銀河などでは数百個程度しかない球状星団(古い星々が球状に集まった天体)が、なぜソンブレロ銀河には約2000個も存在するのか。巨大な楕円銀河の姿が明らかにされたことで、この謎が明らかになった。