石英質の塵粒が輝く恒星を発見 惑星形成の途上の可能性

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2012年5月7日 国立天文台

国立天文台などの研究チームが日米の赤外線天文衛星を用いた観測で、石英質の塵が周囲に豊富に存在する恒星を発見した。この塵は恒星の周囲で惑星のもととなる「微惑星」同士が頻繁に衝突することで放出された可能性があり、太陽系外惑星の形成過程やその材料物質についてのさらなる解明の手がかりになると期待される。


HD 15407Aの赤外線画像と赤外線スペクトル

(左)「あかり」が撮影したHD 15407Aの赤外線画像と、(右)「スピッツァー」で得られたHD 15407Aの赤外線スペクトル(波長ごとの光の強さの分布)。右図で示された恒星のスペクトル(赤)が石英質(青)と一致しており、石英が含まれると判断される。クリックで拡大(提供:東京大学/国立天文台。以下同)

HD 15407Aを取り巻く塵

HD 15407Aを取り巻く塵の想像図。明るく輝く恒星から1天文単位の距離(太陽〜地球の距離)で、微惑星同士が衝突し、石英質を豊富に含む塵が生成される。クリックで拡大

1995年にペガスス座51番星という恒星に惑星が発見されて以来、すでに700個以上もの太陽系外惑星の存在が確認されている。このような系外惑星や、私たちが住む太陽系の生い立ち、そして成り立ちを探ることは、天文学の根本を担う重要な研究テーマの一つだ。

現在広く受け入れられている惑星系形成のシナリオでは、若い恒星の周囲にできるガスと塵の円盤(原始惑星系円盤)の中で、もともと星間空間に存在していた小さな塵が集まって微惑星に成長し、さらにその微惑星同士が衝突・合体することで地球のような岩石質惑星が作られると考えられている。

今回、国立天文台ハワイ観測所・広報担当サイエンティストの藤原英明さん、東京大学大学院理学系研究科・教授の尾中敬さん、名古屋大学理学研究科・研究員の石原大助さんを中心とする研究チームは、惑星が作られるプロセスの後半で主系列星(太陽のように成熟した恒星)の周囲で微惑星同士が衝突する際に、破片の塵が放出される可能性があることに注目した。

破片の塵は、恒星からの光を吸収して温まることにより赤外線を放射する。こうした赤外線を探るため、日本の天文衛星「あかり」の観測データから赤外線で特に明るい主系列星を調査したところ、太陽と同等の質量を持つ恒星「HD 15407A」(ペルセウス座の方向、地球からの距離およそ180光年)が非常に強い赤外線を発していることがわかった(画像1枚目左図)。微惑星が非常に活発に衝突することで恒星の周囲に大量の塵がまき散らされ、その塵が赤外線を発していると考えられる。

さらに、米国の赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」による追加観測で得た恒星の赤外線スペクトル(画像1枚目右図)から以下のことが判明した。

  • HD 15407Aの周囲には1μm程度の大きさの石英質の塵が、少なく見積もっても100兆tは存在する
  • これらの塵の中心星からの距離は、太陽〜地球と同じぐらいである

太陽に似た質量を持つ主系列星の周囲に石英質の塵が見つかり、その量や分布が正確に決まったのは初めてのことだ。

宇宙空間で一般的に見られる塵はケイ酸塩という鉱物であり、石英質の塵はこれまでほとんど見つかっていなかった。HD 15407Aに見られる石英質の塵がどこでどのように作られたのかは、現時点でははっきりとはわかっていない。一方で、地球上には石英に類似した組成の岩石が豊富に存在することが知られている。このことから、地球に類似した表面組成を持つ大きな微惑星がこの恒星の周囲に存在し、この微惑星にさらに別の天体が衝突することによって、石英質の塵が大量に放出されたという可能性も考えられる。

本研究を主導した藤原さんは、「日米が誇る2機の赤外線天文衛星から得られる情報を組み合わせることで、惑星材料物質の解明の手がかりとなる天体を見つけることができました。今後は、理論研究や鉱物の測定、他の波長での観測などから得られる情報を組み合わせることで、この貴重な天体の素性を多角的に解明し、惑星形成過程の理解につなげたいです」と意気込みを語っている。