あかり・すばる・スピッツァー、惑星系形成の鍵をにぎる天体を発見

【2010年6月22日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡と赤外線天文衛星「あかり」、スピッツァーによる観測で、HD 165014という星のまわりに惑星の材料である微惑星同士が衝突してできた大量のちりが見つかった。これまでに見つかったもののうちもっとも濃いちりで、太陽系の1000倍以上にもなる。


(「あかり」によるHD 165014の中間赤外線画像)

「あかり」によるHD 165014の中間赤外線画像。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同様)

(「あかり」によるHD 165014の中間赤外線画像)

「スピッツァー」によるHD 165014の赤外線スペクトル(赤)、垂線で示した位置に見られる凹凸パターンが、結晶質のケイ酸塩鉱物(青)と一致する。クリックで拡大

現在考えられている惑星系形成の標準的なシナリオでは、生まれたての星を取り巻く原始惑星系円盤で小さなちりが集まって微惑星に成長し、さらにその微惑星同士が衝突・合体して地球のような岩石質惑星が作られると考えられている。

また、より進化が進むと、微惑星同士が衝突・合体してできた大量の破片から、ちりの円盤が二次的に作られるとも考えられている。この円盤は惑星形成材料のデブリ(残骸)でできているため、デブリ円盤と呼ばれている。

デブリ円盤中のちりは、中心星からの光を吸収して温まり、赤外線を放射する。とくに中間赤外線で光る温かいちりは、中心星の近くにある地球のような岩石質惑星が作られる領域に存在するため、地球型惑星の形成過程を詳しく解き明かす上でのヒントが得られるのではないかと期待されている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の藤原英明研究員と東京大学の尾中敬教授を中心とする研究チームは、日本の赤外線天文衛星「あかり」の観測データから、中間赤外線で明るく光る温かいちりが存在するデブリ円盤を探す試みを進めてきた。

その結果、いて座の方向にある恒星HD 165014に、強い中間赤外線を発するデブリ円盤を発見した。赤外線の強さをもとに星の周囲に漂うちりの濃さを見積もった結果、これまでに見つかっているデブリ円盤の中で、もっとも濃いちりをまとう天体の一つであることが明らかになった。その濃さは、太陽系にあるちりの1000倍以上にもなる。これほど濃いちりが放出されたのは、HD 165014を取り巻く円盤内で微惑星がひじょうに激しく衝突・合体しているためと考えられている。

研究チームは「あかり」による発見を受けて、さらにすばる望遠鏡やNASAの赤外線天文衛星スピッツァーを使った詳細な観測を行った。

その観測で得られたスペクトル(波長ごとの光の強さの分布)に細かい凹凸が見られた。凸凹は、赤外線を発するちりの種類を特定する上で大きな手がかりとなるもので、いわばちりの「指紋」である。凹凸のパターンを鉱物のデータベースと照合した結果、HD 165014の周囲に豊富に存在する(赤外線を発する)ちりは、大きさが1μm(マイクロメートル:1mmの1000分の1)程度以下の結晶質のケイ酸塩鉱物であることがわかった。

宇宙空間で一般的に見られるケイ酸塩鉱物のちりは非晶質であり、ちりが結晶化するためには摂氏1000度程の高温にさらされる必要がある。デブリ円盤で結晶質のケイ酸塩鉱物が検出されたことは、微惑星同士の激しい衝突・合体によるデブリ円盤の形成とちりの加熱メカニズムとの間にある密接な関係を示しているのかもしれない。

今回の研究は、惑星系形成過程を解明する鍵となる重要な天体の発見となった。また、惑星の材料となる物質の鉱物学的性質についても新たな知見をもたらした。研究チームでは、HD 165014のまわり以外にもデブリ円盤の候補を複数見つけており、デブリ円盤の特性とその背景にある惑星系形成過程のさらなる解明を目指して、観測データの解析を進める。

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