晴天のスーパーアース
【2013年6月13日 国立天文台】
国立天文台・岡山天体物理観測所の2台の望遠鏡を使用した観測から、かに座にあるGJ 3470bと呼ばれるスーパーアース(巨大地球型太陽系外惑星)の大気が世界で初めて観測された。観測データの解析結果から、この惑星には厚い雲がなく、晴れている可能性が高いことが明らかとなった。
福井暁彦研究員(国立天文台)、成田憲保特任助教(国立天文台)、大学院生の黒崎健二さん(東京大学)らを中心とする研究チームが、スーパーアース(注1)「GJ 3470b」のトランジット(系外惑星が主星の手前を通過する現象)を高精度に観測した。GJ 3470bは、質量が地球の約14倍しかなく、これまでに大気が調査された太陽系外惑星(系外惑星)としては2番目に軽い。
観測に使用されたのは、国立天文台 岡山天体物理観測所の口径188cm反射望遠鏡に搭載された近赤外撮像・分光装置ISLE(アイル)と、同観測所の50cmMITSuME(三つ目)望遠鏡に搭載された3台の可視光観測カメラだ。
ほとんどの系外惑星では質量のみが調べられていて、測定が難しい半径についてはわからないものが多い。しかし、トランジットを起こすような特別な軌道をもっている場合には、惑星の半径を見積もることができる。惑星がトランジットする際、惑星の大きさに応じて主星がわずかに減光する。その減光率を高精度に測定することで惑星の半径を測ることができるのだ。
研究チームでは、可視光から近赤外線にかけた4つの色(波長帯)で主星「GJ 3470」の減光率を測定し、GJ 3470bの半径を色ごとに見積もった。その結果、近赤外線(波長1.3μm)で測定したGJ 3470bの半径が、可視光で測定した半径に比べて約6%小さいことを発見した。この色による半径の違いは、GJ 3470bが持つ大気の特徴を反映していると考えられている。
惑星が晴れた大気を持っていると、主星の光が惑星の大気を透過する際、特定の波長の光は大気分子に吸収されたり散乱されたりするため、観測波長によって主星の減光率、つまり惑星の見かけの半径に違いが生じる。しかし、もし仮に惑星の大気が厚い雲で覆われているとすると、どの波長の光も同程度に散乱されるため、色による半径の違いは見られないはずだ。そのため、波長によって半径が異なるという観測結果から、この惑星は少なくとも厚い雲には覆われていないということが言えるというわけだ。
通常、スーパーアースのトランジットによる主星の減光率はひじょうに小さいため、スーパーアースの大気を観測することはたいへん困難だが、GJ 3470bの場合は主星のサイズが小さいという特徴があり、主星に対する惑星のサイズが相対的に大きくなる。そのおかげで、大気の観測が可能になる程度に大きな主星の減光が見られる(注2)。
さらに、この主星は可視光ではやや暗いが、近赤外線でひじょうに明るいという性質を持っている。そのため、高性能の近赤外線観測カメラ・ISLEを用いることで、近赤外線において高精度でスーパーアースの半径を測定する事ができ、今回の成果に繋がった。
研究チームでは、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡でGJ 3470bをより詳細に観測したいとの意向だ。福井研究員は今後の展望を次のように語っている。
「GJ 3470bは主星からわずか0.036au(地球と太陽の距離の約28分の1)という主星に近い軌道を、約3.3日という短い周期で公転しています。そのような惑星がどのように形成したかはまだよくわかっていません。GJ 3470bは厚い雲に覆われていない可能性が高いので、惑星の雲に邪魔されずに大気中の成分を検出できるはずです。大気中に水蒸気などの低温度で氷になる物質が検出できれば、この惑星はもともと、氷が存在でき来る主星から遠く離れた軌道(数au)で形成され、その後、軌道が主星の近くへ移動したと考えられます。一方、もしそのような物質が大気中に見つからない場合は、この惑星は主星の近くで形成された可能性が高いと考えられます。GJ 3470bの大気成分の調査によって、スーパーアースがどのように形成されたかを解明するための重要なヒントが得られると期待しています」。
注1:スーパーアースの定義は明確ではないが、質量が地球と海王星(地球の約17倍)との中間である太陽系外惑星を指すことが多い。GJ 3470bは主星に近い軌道を公転する天王星質量(地球の約14倍)の惑星であることから、ホット・ウラヌス(灼熱天王星)とも呼ばれている。
注2:大気の詳細観測が可能なスーパーアースは、GJ 3470bを含めてまだ2個しか知られていない。もう1つは地球の約6.6倍の質量を持つGJ 1214b(へびつかい座)。
ステラナビゲータで系外惑星の位置を表示
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