金星を乾燥させたのは天体重爆撃かもしれない
【2015年9月9日 千葉工業大学】
地球の兄弟星と呼ばれる金星の表層には、かつては地球の海水と同程度の水があったと考えられているが、現在では地球の海水量の10万分の1しか存在していない。金星表層にあった水の行方は、地球と金星がいかにして作り分けられたかなどという問題と直結した、比較惑星学における最重要問題の一つだ。
金星は太陽に近いため、海は蒸発し、水蒸気の大気をまとっていた可能性が高いことが指摘されている。その水蒸気は若い太陽からの強い紫外線で水素と酸素に分解され、軽い水素は宇宙空間に逃げる。ところが金星サイズの惑星から地球の海洋相当量の水に含まれる酸素を宇宙空間に逃すことは容易ではなく、分厚い酸素大気がどのように消費されたのかが問題となっていた。
千葉工業大学惑星探査研究センターの黒澤耕介さんは、形成末期の金星に現在の1万倍以上の頻度で天体衝突が起こっており(天体重爆撃期)、その衝突で初期金星から水分が取り除かれたとする説を発表した。
天体重爆撃期は、太陽の紫外線が強く水蒸気大気の光化学分解が進行する時期と重なる。衝突によって金星の地殻やマントルが砕かれ、岩石塵が高温の初期金星大気中に放出されると、塵と高温の酸素大気が反応して岩石の酸化が起こり、大気から酸素が取り除かれ金星が乾燥するというのだ。
初期金星への天体重爆撃の数値モデルを用いて粉砕される岩石の総量を計算したところ、大気に放出される岩石塵は現在の地球大気質量の1万倍にも及ぶことがわかった。これは原始金星において主要な酸素消費源になり得るもので、強い紫外線による宇宙空間への水素散逸の効果と合わせると、金星表層から地球の海洋質量相当の水分を消失させる可能性があることが示された。
初期地球にも天体重爆撃があったと推定されるが、地球は太陽からの距離が金星よりもわずかに遠いため、水蒸気大気が凝縮して海洋を作り、若い太陽からの紫外線による光化学分解を免れたと考えられる。表層水が液体だったか気体だったかという形態の違いにより、惑星形成過程の末期に必然的に起こる天体重爆撃に対する表層環境の応答に劇的な違いが生じ、地球と金星が作り分けられたと考えられる。
今回の研究は、天体重爆撃が金星の表層水問題だけでなく、系外惑星の大気進化過程にも、大きな役割を果たす可能性があることをも示唆する成果となった。
〈参照〉
- 千葉工業大学 惑星探査研究センター: 地球と金星を作り分ける新説を提唱 ―天体重爆撃が金星を乾燥させた―(PDF)
- Earth and Planetary Science Letters: Impact-driven planetary desiccation: The origin of dry Venus 論文
〈関連リンク〉
- 千葉工業大学 惑星探査研究センター: http://www.perc.it-chiba.ac.jp/
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー: 金星
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