金星にかつて海は存在したか

【2010年6月30日 ESA

金星にかつて海は存在したのだろうか。生命誕生の謎を探るうえで重要なこのテーマについて、現在ESAの金星探査機ビーナスエクスプレスによる調査・研究が進められている。


(ビーナスエクスプレス)

ビーナス・エクスプレス(提供: ESA/AOES Medialab)

(金星の想像図)

金星の想像図(提供: J.Whatmore)

生命に満ちあふれた地球と、高温の地獄のような金星。ずいぶんと姿が異なるように見える2つの惑星にも、多くの類似点がある。6月20日〜26日にフランス・オーソワで開催された国際金星会議では、日本の金星探査機「あかつき」のチームもふくめ世界中から集まった惑星研究者が、地球と金星の比較などについて話し合った。

現在の金星には水がほとんどなく、それが地球と金星の決定的な違いとなっているが、何十億年も前にはもっと豊富に水があったようだ。というのは、金星探査機ビーナスエクスプレスの探査で、かつて大量の水が金星から逃げていったことが確実となったのである。そのしくみは、水分子が太陽からのX線によって水素と酸素に分解され、宇宙空間に飛んでいった、というものだ。この時の水素と酸素の比率が2対1であることも判明しており、元は水分子だったという裏付けとなっている。また、金星大気の上層部で、重力にとらえられたままの重水素が徐々に濃縮されていることもわかっている。

「すべてが、金星にかつて大量の水があったことを示唆しています」(英・オクスフォード大学のColin Wilson氏)。だが、大量の水があったからといって、地表に海があったことに即つながるわけではない。

仏・パリ第11大学のEric Chassefière氏によるコンピュータシミュレーションモデルでは、「水は、金星がまだ生まれたばかりで地表がどろどろの状態だった頃にのみ存在し、その大部分が大気中のものだった」ということが示されている。水分子を放出することにより温度が下がり、地表が固まったのだろうと考えられており、これでは海は存在し得ない。

検証の難しい仮説ではあるが、この真偽は重要な鍵となる。「かつて地表に水があった」ということは、「当時の金星が、生命が存在できる状態の初期段階にあった」という可能性につながるからだ。もしChassefière氏のモデルどおり、地表が固まる前に大量の水が失われたことが事実だったとしても、その後に彗星が衝突して水をもたらし、生命が生存可能な状態を作った、という可能性もないとはいえない。

Chassefière氏は「金星が作られたばかりの頃の成長過程をもっとよく知るためには、溶岩の海(マグマオーシャン)と大気のシステムの進化について、さらに本格的なシミュレーションが必要です」と語っている。ビーナスエクスプレスがもたらすデータが、大きく貢献することになりそうだ。