鳥が羽を広げたようなオリオン座大星雲。見事な渦巻き構造を見せるアンドロメダ座大銀河。 目で見るだけでも楽しいのですが、写真に撮るとより細かい部分や淡い構造など、見えなかった姿が浮かび上がってきます。
そのような星雲・星団の撮影は、一昔前までは高価な機材とそれを使いこなす高度なテクニックが必要でした。しかし、銀塩写真からデジタル写真に移行するとともにリーズナブルな天体撮影機材も増え、手軽に星雲・星団を撮影できるようになりました。
ここでは、天体写真を撮影するための機材やノウハウなどを紹介していきます。
はるかな時間と空間を超えて届いた深宇宙の姿を、あなたも写してみませんか。
デジタル時代の星雲・星団撮影術
デジタル時代の星雲・星団撮影術とは
銀塩写真時代の天体写真は、できる限り長時間の露出をかけたうえでさらに増感処理を行い、天体からのかすかな光をフィルムに蓄積するというものでした。そのため、長時間露出に耐える追尾精度、画像を美しく増感するテクニックや撮影方法など、様々なノウハウや機材が必要でした。
デジタル時代となった今、星雲・星団の撮影は、比較的短い露出を繰り返し撮影後に画像処理で仕上げるという手法が一般的です。撮影枚数を増やすことで、露出時間を加算した効果が得られ、一晩だけでなく数日かけて撮影することも可能です。
また、撮影した画像をPCソフトなどで処理すれば、光害によるカブリを取り除くことができるため、空が明るい市街地でも手軽に星雲・星団を撮影できるようになりました。
天体画像がきれいに仕上がるかどうかを左右する決め手は、撮影50%、画像処理50%といったところでしょうか。これらの作業はすべてPCを使って行うことになります。
さまざまな天体
- 銀河:
天の川銀河の外にある恒星の大集団。撮影可能な天体の中では最も遠くにあります。中心部のバルジ、渦を巻く腕や暗黒帯など見ごたえのある天体です。見かけは小さいながらも明るく、写しやすいものが多いです。
主な天体:アンドロメダ座大銀河(M31)、りょうけん座の子持ち銀河(M51)など - 散光星雲:
宇宙空間に広がるガスや塵が近くの恒星の紫外線などで光って見えている天体。撮影すると鮮やかな赤色をしたものが多く、被写体として映える天体です。
主な天体:ばら星雲、いて座の干潟星雲(M8)、三裂星雲(M20)、オリオン座大星雲(M42)など - 惑星状星雲:
星が一生の終わりに放出するガスが輝いている天体で、色や形がバリエーションに富んでいます。小さいものが多いので、焦点距離2000mm以上の長焦点で撮影すると複雑な色合いや構造が写り、面白い天体です。
主な天体:こぎつね座の亜鈴状星雲(M27)、こと座の環状星雲(M57)など - 超新星残骸:
超新星爆発の後に残ったガス状の天体。超新星爆発で吹き飛ばされたガスが衝撃波をともない広がっているもので、様々な構造を見せてくれます。
主な天体:おうし座のかに星雲(M1)、はくちょう座の網状星雲など - 球状星団:
天の川銀河のハローに沿って分布する、古い恒星が球状に集まった天体。恒星が密集した様子が美しい天体です。
主な天体:さそり座のM4、ヘルクレス座のM13など - 散開星団:
同じ分子雲から生まれた恒星の集団。比較的若い、明るい青色巨星が多いため撮影しやすい天体です。
主な天体:ペルセウス座の二重星団、おうし座のプレアデス星団(M45)など
良い天体写真のポイント
- 構図
対象天体がきちんと真ん中にあるか。いわゆる「日の丸構図」が一般的な構図です。 - なめらかさ
対象天体の暗い部分から明るい部分まできれいに映っているか。とくに暗い部分ではノイズ感がなく滑らかな階調になっているかどうかがポイントです。 - 色のバランス
色のバランスも重要です。散光星雲の赤や惑星状星雲の青など、透明感のある色調になるかがポイントです。 - 背景はほんのり明るく
背景は完全な黒でなくほんのりグレーにすると、天体像が引き立ちます。 - ムラのない仕上がり
色かぶりや、周辺減光などの明るさのむらも画像処理で補正するのがポイントです。
必要な機材
星雲・星団の撮影に必要な機材は以下の通りです。
自動導入機能付き赤道儀
望遠鏡で星を追尾する(日周運動による動きを追う)ために必要なのが「赤道儀」です。赤道儀とは、鏡筒を載せる架台の種類のひとつで(他に「経緯台」があります)、星の日周運動に合わせてモーターで回転し、同じ天体を視野の同じ場所にとらえ続けることができます。星を点像として撮影したい場合には必須の機材です。
また、指定した天体の方向に自動的に鏡筒を向けてくれる「自動導入機能」が必要です。
価格は10万円から60万円以上と幅がありますが、高価なものほどより重い、つまり大口径の鏡筒を載せることができます。また、重くなるほど架台全体が強固になるので風の影響を受けにくくなります。赤道儀に関しては、大は小を兼ねます。
初めは低価格(軽量級)の赤道儀、本格的に追求したくなったら高価(重量級)な赤道儀に換えて望遠鏡の口径をアップしていくのもよいですが、予算が許せば最初から中級機以上を使い、搭載重量やガイド精度に余裕を持たせた方が撮影が楽になります。
いずれにせよ、搭載する鏡筒の重さとのバランスが重要です。
望遠鏡(鏡筒)
口径が大きいほど集光力が上がり、解像度も上がります。また、焦点距離が長いほど天体を大きく写すことができます。
屈折式や反射式などさまざまな種類の光学系があり、価格も5万円から100万円以上と大きな幅がありますが、最初は焦点距離600mm程度の廉価な屈折式が取り扱いやすいでしょう。鏡筒にカメラを取り付けるには、カメラのマウントに合ったアダプターリング(後述)などが必要になります。
屈折
レンズで光を集める望遠鏡です。レンズ1枚では色収差が生じるので、複数のレンズを組み合わせています。天体写真撮影用なら最低でもアクロマート、できればEDアポクロマートレンズが欲しいところです。
5〜10cmの小口径の屈折望遠鏡が入門用として扱いやすいです。
反射
反射鏡で光を集める望遠鏡で、リッチークレチアン式、ドールカーカム式など様々な形式がありますがニュートン式が主流です。屈折望遠鏡に比べて大口径でも廉価なものが多く、色収差が出ないのが特長です。
反射屈折式(カタディオプトリック)
レンズと反射鏡を組み合わせた望遠鏡で、シュミットカメラ、マクストフカセグレンなどがありますが、廉価なシュミットカセグレンが多く使われています。焦点距離が長いため、銀河や惑星状星雲、惑星など小さな天体の撮影に向いています。
入門者向けの定番セット(赤道儀+鏡筒)
- スカイウォッチャー
- 赤道儀:EQM-35 Pro Sky Watcher
- 鏡筒:BKED80 OTAW
- http://www.sightron.co.jp/
- ケンコー・トキナー
- 赤道儀:NEWスカイエクスプローラー SEII
- 鏡筒:NEWスカイエクスプローラー SE102
- http://www.kenko-tokina.co.jp/
- ビクセン
- 赤道儀:SXD2
- 鏡筒:ED103S-S
- http://www.vixen.co.jp/
- タカハシ
- 赤道儀:EM-200
- 鏡筒:FSQ-106ED
- http://www.takahashijapan.com/
レンズ交換式デジタルカメラ(一眼レフとミラーレス)
星雲星団の撮影にはレンズ交換式デジタルカメラを使います。デジタルカメラは年々進化して銀塩カメラの感度をはるかに超えるようになり、天体をより低ノイズで撮影できるようになりました。
カメラの選定ポイントとして、撮像センサーのサイズ・ピクセル数・感度が挙げられます。一般的に、同じピクセル数のフルサイズカメラとAPS-Cサイズのカメラを比べると、フルサイズカメラの方が1画素の大きさが大きく、より効率よく光を集めることができるので、フルサイズカメラで撮影した方がより低ノイズ、つまり高画質になります。
ただしフルサイズの場合、APS-Cサイズに比べて広い範囲を写せるため、望遠鏡の写野周辺の収差や減光も写ってしまうことがあります。カメラサイズを選ぶ際には、望遠鏡の性能とのバランスを考えて選んでください。
感度は高いに越したことはありません。最近の機種は感度を上げてもノイズが発生しにくくなっているので、カメラボディは消耗品と考えて、2、3年ごとに買い替えるもの良いかもしれません。
また、通常のカメラは赤外線をカットするフィルターが内蔵されているので、赤い散光星雲が写りにくくなっています。そのためフィルターを特殊なものにしたニコンD810A や、望遠鏡販売店がフィルターを交換した改造ボディなどが販売されています。
カメラのバッテリー
機種によりますが、フルチャージで3〜4時間ぐらい撮影できます。予備のバッテリーは必須です。
純正品のACアダプターや、モバイルバッテリーから給電できるサードパーティのアダプターを利用するのも良いでしょう。
アダプターリング [望遠鏡〜カメラ]
望遠鏡にカメラを取り付けるためのアダプターです。望遠鏡側、カメラ側それぞれに合ったアダプターを用意して組み合わせます。
回転リングやヘリコイドなどのオプションを追加することができます。
Windows PC
赤道儀とカメラを制御するためにWindows PCが必要です。野外で使うのでノートPCが便利でしょう。バッテリー駆動でも4〜5時間以上使えるものを選びます。
カメラや望遠鏡とはUSBで接続するので、USBポートが2つ以上あるものがおすすめです。USBポートが1つで充電を兼ねているものは避けましょう。
オートガイダーなどはPCのUSBから給電されるので、PCのバッテリーに余裕があるものがベストです。
●PCの推奨スペックの目安用途 | 推奨動作環境 | 高画素カメラ制御 |
---|---|---|
CPU | Intel Core i5 相当以上 | Intel Core i7(4コア)相当以上 |
メモリ | 8 GB以上の実装 | 8 GB以上の実装 |
HDD容量 | 512 GB | 1 TB |
バーティノフマスク
望遠鏡の先頭に取り付けてピント合わせを補助するパーツです。ピント合わせが画期的に楽になる必須アイテムです。望遠鏡の口径に合ったものを選びます。
光害カットフィルター
空が明るすぎて数秒の露出で画像が飽和してしまう場合は、街灯など主な光害の波長だけをカットする「光害カットフィルター」がおすすめです。このフィルターを使うと、星雲星団の光を高いコントラストでとらえることができます。
近年では、特定の波長(Hαなど)だけを通すバンドパスフィルタなどもありますので、対象に応じて検討してみるとよいでしょう。
ステラショット(撮影用ソフト)
「ステラショット」は、望遠鏡(赤道儀)、カメラ、オートガイダーなどの機材を統合して操作する天体撮影ソフトです。このソフトを使って星雲・星団の撮影を行います。
「ステラショット2」は、キヤノンとニコンの主なデジタル一眼レフカメラ、および一部のCMOSカメラに対応しています。
無線制御デバイス「GearBox」(別売またはオプション品)があれば、ソニーαシリーズのカメラも制御できます。
ステライメージ(画像処理用ソフト)
「ステライメージ」は、撮影した画像を処理するためのソフトです。ノイズ低減に欠かせないダーク処理や、複数枚の画像を重ね合わせるコンポジット合成など、天体画像の処理に必要な機能がすべて揃っています。
オートガイダー(オプション)
オートガイダーは星の追尾を安定させるもので、数分以上の長時間露出をする際には必須になります。オートガイドが不要な短時間露出での撮影に慣れた後、露出時間を長くしたり、追尾のずれが気になる場合に必要な機材です。高感度のCMOSを使ったオートガイダーがおすすめです。
価格は、ガイド鏡(オートガイド用のサブ望遠鏡)とオートガイダーを合わせて5万円から10万円程度です。望遠鏡をセットで購入する際には、まとめて購入してもよいかもしれません。
購入する前にステラショットからの制御に対応しているか、また使用する赤道儀の制御に対応しているかの2つを確認して購入しましょう。ステラショットからの制御に対応した機種については製品ページを確認してください。
バッテリー、その他
野外で、赤道儀、PC、カメラを駆動する電源が必要です。それぞれ電圧が違うので、100V、12V、5Vの給電ができる大容量のリチウムイオンバッテリーがあると便利です。
以前は12Vのカーバッテリーが使われていましたが、今では大容量かつ小型軽量のリチウムイオンバッテリーが主流です。最近のハイブリッドカーなどは大容量バッテリーの搭載により、100Vを給電できるものが増えてきたので、車を電源として使うのも良いでしょう。なお赤道儀の駆動には12VのDC電源を用います。
さらに、PCを置く机や椅子があると楽に操作できます。
機器の接続
赤道儀、カメラ、PCは、以下のように接続します。
標準的な接続パターン
ビクセンSTAR BOOKシリーズの場合
- カメラ〜PCの接続:
カメラ本体に付属のケーブルで接続可能ですが、長さが足りない場合は、USBポートの形状が同じものでさらに長いUSBケーブルを用意します。 - 赤道儀〜PCの接続:
赤道儀のハンドコントローラとPCをつなぎます。- ほとんどの機種では、ハンドコントローラのPC制御用ポートとPCのUSBポートをつなぎます。多くの従来機種の場合、望遠鏡に付属しているケーブルを、市販の「シリアル-USB変換ケーブル」を介してPCのUSBポートにつなぎます。シリアル-USB変換ケーブルは、Windows OS対応を確認する必要があります。
ハンドコントローラ側にUSBポートが搭載されている場合は、USBケーブルで接続できます。USBポートの形状(TypeA、TypeB、mini-Bなどがあります)を確認して市販のものを入手します。 - ビクセンSTAR BOOKシリーズを接続するには、STAR BOOKコントローラのLANポートとPCのLANポートをLANクロスケーブルでつなぎます。
- ほとんどの機種では、ハンドコントローラのPC制御用ポートとPCのUSBポートをつなぎます。多くの従来機種の場合、望遠鏡に付属しているケーブルを、市販の「シリアル-USB変換ケーブル」を介してPCのUSBポートにつなぎます。シリアル-USB変換ケーブルは、Windows OS対応を確認する必要があります。
USBケーブルはUSBハブでまとめたり、USB延長ケーブルで延ばしたりすることもできますが、信号が乱れて接続がうまくいかない場合があるので、事前に十分なテストをしておきましょう。
GearBoxで接続する場合
無線制御デバイス「GearBox」(別売)で接続する場合は、PCのポートの代わりにGearBoxのポートに接続します。
望遠鏡・カメラ一式の組み立てイメージ
すべての機材を組み立ててつなげると、右の写真のようになります。
撮影のポイント
ここでは、きれいな星雲・星団写真を撮るためのポイントをまとめておきます。以下のうち、ピント合わせについては望遠鏡を直接操作する必要がありますが、それ以外の天体の導入から撮影までは、露出時間やISO感度の設定も含めすべて「ステラショット」でPCから操作できます。必要最低限の操作で撮影ができるので、撮影の手間を大幅に省けます。
撮影スタイル
POINT
- 自宅撮り:短時間露光でたくさんの枚数を撮影する
- 遠征撮り:長時間露光で高画質の撮影が狙える
天の川が見える場所に自宅があれば理想的ですが、空が明るいところでも撮影できるのがデジタル時代の天体撮影です。
- 自宅撮り
自宅や近所の公園など、身近な場所での撮影。空が明るいので長時間露光での撮影はできませんが、短時間露光でたくさんの枚数を撮影することで補えます。移動の時間が節約できるため、撮影時間を長くとれます。空が明るくても撮影が可能なデジカメ時代ならではの撮影スタイルです。 - 遠征撮り
光害のない、空の暗いところまで出かけての撮影。長時間露光で高画質の撮影を狙えますが、現地でのトラブル対応など慣れが必要になります。遠征の帰りの居眠り運転には十分注意しましょう。
上達のコツ
POINT
- まずは手近な明るい場所でノータッチガイドでの撮影をマスター
段階を踏みながら天体撮影をマスターしていきましょう。
STEP 1
まずは自宅周辺の手近な場所で、「ノータッチガイド(オートガイドなし)」での撮影に慣れましょう。最初のうちはいろいろな問題が発生しますが、自宅が近ければ対処が可能です。住宅地付近では空が明るいので、「高感度」「短時間露光」で撮影します。30 秒程度の短時間露光であればオートガイドは不要です。短時間露光でうまく撮れないようであればオートガイドもうまくできません。
光害がある場所でも、撮影枚数を増やして総露出時間を長くすることにより、高画質な天体画像に仕上げることができます。
STEP 2
オートガイド撮影をマスターしたい場合は、まずはSTEP 1と同じ環境で短時間露光でのオートガイド撮影に慣れておく必要があります。空の暗い慣れない場所でいきなりオートガイドを始めようとしても、何も撮影できないまま夜明けを迎える……ということにもなりかねません。
STEP 3
手近な場所でのノータッチガイドがうまくできるようになったら、空の暗いところに出かけて「低感度」「長時間露光」での撮影に挑戦してみましょう。光害のあるところよりもS/N比の高い(ノイズの少ない)画像を撮影できます。オートガイドを行う場合は、感度を下げて長時間露光をします。
● ノータッチガイド
ピント合わせ
POINT
- バーティノフマスクを使って星が点像になるように
- ピントが合えば微恒星や淡いディテールも写りやすい
天体のディテールやより暗い星を写すためには、ピントを正確に合わせる必要があります。
しかし、天体は暗いのでカメラのオートフォーカスやフォーカスエイドは使えません。ライブビューモードで星を見ながらピントを合わせることもできますが、望遠鏡は焦点距離が長くピントが合った位置がつかみにくくなっています。
そこで、鏡筒の前に「バーティノフマスク」を取り付けてピントを調整します。片側3本ずつのひげの間隔が均等になったときが、ピントが合った状態です。ピントのずれがひげ(回折光)のずれとして見えるので、直観的に調整できます。望遠鏡のピントは外気温が数度違っただけでずれてくることがあるので、撮影した画像をときどきチェックしてピントがずれていないか確認しましょう。
天体の導入と構図決定
POINT
- 天体は中央に配置。複数天体なら全体のバランスを見て構図決め
- 「ステラショット」の「導入補正」機能で自在に調整
- 多少のずれはトリミングで修正
まずは、構図をしっかり決めておきましょう。撮影対象の天体が画面の中央にあり、視野の上側(長辺または短辺)が天の北極方向というのが一般的な構図の向きです。
自動導入望遠鏡の普及によって、天体の導入が簡単になりましたが、移動式の望遠鏡では“完全に正確な”導入を望むことはできません。自動導入後に目的の天体を画面の中央に追い込む作業が必要になります。目的の天体が淡い場合は、短時間の露出では写らないため、以前の天体撮影では星の並びを目安にして視野を少しずつ動かしては撮影という作業を繰り返していました。これは、数分から数十分かかることもある面倒な作業でした。
また、自動導入の精度を上げるためには、赤道儀の初期設定で複数の恒星に位置合わせをするアライメント(望遠鏡の向きと天体位置の同期)が必要で、これも数分から数十分の時間を要する作業でした。
ところが天体撮影ソフト「ステラショット」では、導入と構図合わせを自動で処理することができます。自動導入後に撮影を行い、写っている恒星をデータベースと比較してずれを自動的に計算し、目標の天体が中央にくるように赤道儀の向きを微調整します。これでどんなに暗い天体にでも狙いを定めることができます。また、複数の銀河や彗星の尾など、画面の中央を目標天体から少しずらしたいときも、画面でそのポイントを指定することで簡単に調整できます。
RAWで保存
POINT
- 天体撮影ではRAWで保存
JPEGとRAWの一番の違いは、階調の多さです。JPEGでは256階調しか表現できませんが、RAWではその16倍以上の階調を記録することができます。天体のように淡い対象を表現する際には、この階調差が決定的になります。
露出時間と枚数
POINT
- 撮影画像のヒストグラムで適正露出を確認
- 露出時間の合計が長くなるように複数枚撮影
- 総露出時間は10分以上を目安に
星雲・星団写真の画質を決める一番のポイントが、露出時間です。露出時間が長くなるほどS/N比(天体像とノイズの比率)が向上して、より淡い部分がはっきりと見えてきます。撮影の時間は限られているので、構図調整やピント合わせなどを手早く済ませて、なるべく露出時間を稼ぎたいところです。
数分以上の露出時間では、オートガイダーが必要になってきます。まずはノータッチガイド(オートガイダーを使わない撮影)で、30〜90秒程度の露出で複数枚撮影して、総露出時間を長くします。
枚数の目安は、総露出時間が少なくとも10分(例:30秒露出で20枚撮影)以上を目安にすると、画像処理で良好な結果が得られます。
ただし短時間のノータッチガイドで追尾がほぼ流れないように撮影できないと、オートガイダーを使っても追尾は安定しません。まずはノータッチガイドをマスターしましょう。
適正露出は「ヒストグラム」で確認します。カメラの液晶画面でよく見られるものですが、「ステラショット」の画面でも表示できます。テスト撮影した画像でヒストグラムのピークの位置が左から4分の1〜3分の1あたりにあれば適正露出、それより右側は露出オーバーの状態です。
ダークフレーム撮影
POINT
- 「何も写っていない」画像を撮り、後の画像処理の段階でノイズを差し引く
- 必ず天体撮影と同じ露出時間、ISO感度、画質で撮影
- 撮影枚数はライトフレームの4分の1を目安に
「ダークフレーム」(ダーク画像)は後で画像処理を行うときに必要になります。「ダークフレーム」とは、望遠鏡にふた(キャップ)をして撮影した「何も写っていない」画像です。何も写っていませんが、カメラのノイズだけは記録されます。これを本撮影の画像から差し引くことでノイズを低減します。ダークフレームに対して本撮影画像を「ライトフレーム」(ライト画像)といいます。
ダークフレームに写るダークノイズはカメラ内部の温度によって増減しますので、本来は本撮影ごとに撮影しておきたいですが、気温の変化が数度以内であれば撮影機会ごとでも構いません。
本撮影と同じ露出時間、ISO感度、画質に設定して、枚数はライトフレームの4分の1を目安にして撮影します。
● オートガイド
オートガイドで長時間露出
POINT
- オートガイドによる長時間露光で、画像の品質を向上
同じ機材、同じISO感度の設定で10分露出で1枚撮影した画像と、1分露出で10枚撮影してコンポジットした画像を比較すると、前者の方がよく写ります。天体の淡い部分を写すには、なるべく露出時間を長くしたいのですが、ノータッチガイドで長時間の露出を行うと赤道儀の追尾誤差により、星が点像ではなく線状に伸びる頻度が高くなります。追尾のずれを自動的に補正するためには、オートガイダーを用います。
オートガイドを行うには、オートガイダーをガイド鏡に取り付けて鏡筒やプレートにしっかりと固定し、最初にキャリブレーションを行い補正の仕方を学習させます。オートガイド撮影中に視野のずれを監視して、星像が点になるように赤道儀の方向を自動的に補正し、高い精度で追尾します。
空の暗い場所では、カブリが少なく長時間の露出ができますので、オートガイダーを使って淡い天体の撮影を目指してみるといいでしょう。
ディザリングガイド
POINT
- ピクセルをずらしながらのガイド撮影でダーク補正と同じノイズ除去の効果に
ディザリングガイドとは、各画像を適切にずらしながらオートガイド撮影を行う手法です。 通常のオートガイドでは、カメラの同一ピクセルに同じノイズが記録されるのでコンポジットした時に目立ってしまいますが、ディザリングガイドでずらしながら撮影することにより、ノイズが平均化されてダーク補正と同じような効果を得ることができます。ダークフレーム撮影分の時間を節約できるメリットがあります。
「ステラショット」では、オートガイドの設定画面でディザリングガイドをオンにするだけで通常のオートガイドからディザリングガイドに切り替えられます。
ディザリング撮影 | |||
なし | あり | ||
ダ | ク 補 正 | な し |
||
あ り |
上の画像のように、ディザリングガイドで撮影してさらにダーク補正もした場合が最もノイズを減らす効果が高くなります。ダーク補正をした画像とディザリングガイドで撮影した画像を比べると、同じくらいノイズが減っているのがわかります。ダークフレームを撮影する手間がかからないため、ディザリング撮影の方が便利です。
画像処理のポイント
星雲・星団の撮影画像をより見栄えのいいものにするのが、PCソフトを使った画像処理です。天体画像処理専用ソフト「ステライメージ」では、画像ファイルを指定するだけで、ノイズを減らすダーク処理やコンポジット機能などの基本的な処理を簡単に行えます。さらに、コントラストや色を調整して自分好みの画像に仕上げることができます。撮影が終わった後はじっくりと画像処理に取り組みましょう。
RAW画像を処理する
JPEGに比べて階調データが圧倒的に多いRAW画像を処理します。RAW画像の処理は多くのメモリを消費するため、なるべくメモリ搭載量の多いPCを用意します。
ダーク補正
フラットフレームからダークフレームを引き算して、ノイズを減らします。
コンポジットして画質を向上
画像をコンポジットすることで露出時間の合計が長くなり、ノイズを減らせます。カメラ本体固有のノイズを減らす「ダーク補正」や、突発的なノイズの処理を行います。
背景を引き締める
背景は真っ黒でなく適度な明るさを残し、ほんのりグレーになるように調整します。
星雲・星団を目立たせる
天体がなるべく明るくなるよう、背景のノイズが目立たない範囲で強調処理します。階調の強調と、ディテール強調の「シャープネス」処理とを組み合わせて調整します。
色の調整
カラーを強調して色を鮮やかに引き立たせます。