発見ストーリー
アイソン彗星は、2012年9月21日(世界時。以下同)に18.8等の明るさで発見されました。発見者はベラルーシのヴィタリー・ネフスキーさんと、ロシアのアルチョム・ノヴィチョノクさん。最近の彗星界でもっとも活躍しているグループで、太陽から遠ざかった周期彗星が再び帰ってきたところをまだ暗いうちに世界の誰よりも早くとらえるなど、とくに暗い彗星の観測で大きな成果をあげています。今回の彗星は彼らにとって2011年9月以来1年ぶりの新彗星発見となりました。
彼らが発見した天体が小惑星センターの未確認天体のページに掲載されると、すぐにインターネット上で大きな注目を集めることになりました。というのも、2013年の秋に太陽の表面をかすめるように通り過ぎるという特異な軌道が計算されたためです。
発見直後に計算される初期の暫定軌道は誤差が大きく、実際の軌道とはまったく別物であることもしばしば。よく検討してみると、太陽に近づくどころかすでに遠ざかりつつあるところだったり、はるか遠方のまままったく近づいてこないと判明することも。ところが、この天体は違いました。
過去の自動サーベイ(自動的に空の広い範囲を撮影)のデータから探してみると、発見から1年近くもさかのぼった2011年12月と2012年1月に、この天体の発見前の姿が写っていました。その時の位置も参考に計算してみると、この天体は本当に2013年11月28日に太陽に大接近することが判明したのです。大彗星になることが約束されたような、夢のような天体ということになります。
同時に、大きな話題となるであろうこの天体が「アイソン彗星」と名づけられたことが公表されました。アイソンとは「国際科学光学ネットワーク」(International Scientific Optical Network;ISON)の略称です。
ネフスキーさんとノヴィチョノクさんによれば、発見したときの天体はほぼくっきりとした恒星状の姿で、通常ぼんやりと見える彗星かどうかは確認できなかったそうです。すぐに大口径の望遠鏡で観測し、この天体が彗星であることを突き止めたのですが、それよりも早く他の観測者によって彗星であることが確認されてしまいました。
このようなケースでは現在の天体の命名ルールだと、彗星は発見者の個人名ではなく、グループの名前で命名されます。「ネフスキー・ノヴィチョノク彗星」の誕生を逃してしまった2人にとっては、やや残念な結果になりました。
とはいえ、1年近く前の自動サーベイで見逃されており、彼らが発見したわずか1日半後には、自動サーベイのリニアがこの天体をとらえています。彼らがこの天体の発見を勝ち取ったことだけでも、すばらしい快挙といえます。
(※)この項目は、月刊「星ナビ」2012年12月号の記事(執筆:吉田誠一さん)を再構成したものです。