ズィーティーエフ彗星(C/2022 E3)が5等前後まで明るくなると予想されていて、2023年の2月後半ごろまで見ごろです。どれくらい明るくなるのか、どのような尾を伸ばしてくれるのか、その振る舞いに興味が尽きません。双眼鏡で見たり写真に撮ったりしてみましょう。
協力・画像提供:谷川正夫(Tanikawa Plan-net)
目次
彗星を見よう
観望チャンス
ズィーティーエフ彗星は1月22日ごろから2月4日ごろまで、一晩中沈まない周極彗星となります。1月30日の夜にはポラリス(北極星)まで10度くらいの位置にいます。2月5日と6日にはぎょしゃ座のカペラに約2~3度、2月11日には0等とまだまだ明るい火星に約1度、2月14日と15日にはおうし座のアルデバランに約2度と、次々と明るい星に接近しては通過していきます。
探しかた
ズィーティーエフ彗星は明るくなるといっても、予想を上回るうれしい増光がないかぎり肉眼で見ることは厳しいと思われます。双眼鏡を使って探すのがおすすめです(›› 解説)。星図を頼りに、見つけやすい明るい星の近くからたどっていきましょう。
2月2日にズィーティーエフ彗星は地球に最接近します。最も明るく見えるころです。ただし、2月6日が満月で、2日から7日ごろまでは一晩中、月明かりの影響を受けてしまいます。そのため、明るい月の影響で淡い彗星の尾が見づらくなります。
双眼鏡での見えかた
ズィーティーエフ彗星は高度が高くなることもあり、空の状態(暗さ、透明度)が良ければ、ひょっとすると肉眼で確認することができるかもしれません。双眼鏡を使用すれば、その存在をしっかりと見ることができるでしょう。
双眼鏡の口径は3cmクラスでも良いですが、できれば4cm以上あると、淡い彗星の観察に適しています。彗星頭部の「コマ」はぼんやりと面積をもって見えることでしょう。月明かりや街明かりがない暗い夜空では、彗星が明るくなると、核はキラリと光り、コマには微かに青緑の色がついて見えるかもしれません。尾がどれくらいに長く伸びているかも観察しましょう。
空が明るい都会では、淡い尾の部分ははっきりと認識できないかもしれませんが、彗星が予想通り明るくなれば、街明かりにかき消されそうになっている頭部の淡いコマは見えるのではないかと期待されます。
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彗星を撮ろう
撮影チャンス
彗星は「ほうき星」と呼ばれるように、尾を持つ特徴的な姿で魅力のある撮影対象です。明るさや尾が予測のできないような変化をすることもあり、日々の追跡に興味が湧く天体です。また、いろいろな天体と接近したところも撮影の良い機会になります。
- 2月6日から7日にかけての夜には、11~12等になると予想されているアトラス彗星(C/2022 U2; ATLAS)に大接近します。月明かりがあるので写りは悪いかもしれませんが、チャレンジしがいのある対象です。
- 2月8日ごろには、ぎょしゃ座の勾玉(まがたま)星雲IC 405の西側を通過します。200mmより短い中望遠レンズくらいを使うと、彗星と星雲の両方をフレーミングできるでしょう。シャッターチャンスは、夕方の薄明終わりから月齢18の明るい月が昇ってくるまでのわずかな時間しかありません。
- 2月15日ごろにはヒヤデス星団の東側を通過します。月は夜半過ぎまで出てきませんので、長時間露光で分子雲と狙うのもおもしろそうです。
星景的な撮りかた
固定撮影で地上の景色と彗星を共に画角に収めても楽しいでしょう。ズィーティーエフ彗星が明るくなるほど、そして尾が長くなるほど見栄えのする星景写真になります。成長を期待しましょう。
彗星のいる風景を撮るには、撮影地での彗星の位置を確認しておくなど事前の準備が欠かせません。ステラナビゲータで事前に撮影計画を練っておきましょう。
望遠レンズや望遠鏡での撮りかた
彗星のクローズアップを望遠レンズや望遠鏡でダイナミックに撮ることも醍醐味です。光学系は赤道儀に載せて追尾撮影をします。天体撮影ソフトウェア「ステラショット」を使用すると、彗星の自動導入や、スケジュール機能による撮影が可能になります。撮影はソフトに任せて、彗星や美しい星空を双眼鏡で堪能しましょう。
画像処理
彗星に限らず星雲・星団などの天体はとても暗く淡いので、露光時間を数分と長くすると共にISOを高感度に設定して撮影することが一般的に行われています。ただ、撮影された1コマにコントラスト強調などをするとザラザラ感のある粗れた画像になってしまいます。そこで、何枚も撮影して、それらを画像処理ソフトでコンポジットすれば滑らかな画像に改善することができます。
天体画像処理ソフトウェア「ステライメージ」は、多数のコマを自動で位置合わせし、コンポジットしてくれます。操作はとても簡単で、撮影した画像を[画像リスト]に読み込むだけです。ダーク画像やフラット画像を読み込めば、ダーク補正とフラット補正も同時に自動処理してくれます。
彗星の動きに合わせて自動コンポジットする[メトカーフコンポジット]ができるのもステライメージの特長です。動きの速い彗星を恒星基準でコンポジットすると彗星像が流れてしまいますが、[メトカーフコンポジット]なら像が流れることはなく、変化の激しい尾であっても細かな構造が表現できます。
さらに、コンポジットが終わった画像にコントラスト強調や色調調整を行うことで、バランスを整え、淡い彗星の尾を浮かび上がらせることができます。
ズィーティーエフ彗星とは
ズィーティーエフ(ZTF)彗星は2022年3月、米・パロマー山で行われている観測プロジェクト「ZTF」で発見されました。このプロジェクトでは複数の彗星を発見していて(2023年1月時点で7個)、単にズィーティーエフ彗星と呼ぶとどの彗星のことを指すかわからないので、「C/2022 E3」という符号(2022年3月の前半に発見された3番目の彗星、という意味)と一緒に表します。
ズィーティーエフ彗星は発見からおよそ10か月後の今年1月13日に太陽に最接近しました。その距離は太陽~地球よりも遠く、この点だけで考えるとあまり明るくなりませんが、2月2日の地球最接近の際に約4250万km(太陽~地球の30%程度)まで近づくおかげで、明るくなっています。太陽の近くで明るくなる彗星は夕方や明け方にしか見えないので、明るさのわりに見づらいこともありますが、今回のズィーティーエフ彗星は宵~深夜の時間帯に見やすいのも高ポイントです。
ズィーティーエフ彗星は今後、太陽系の彼方に飛び去ってしまい、二度と太陽系の内側には戻ってきません。