月は地球のマグマオーシャンからできた

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月の形成理論の一つ「ジャイアントインパクト説」の数値シミュレーションにより、月が原始地球のマグマオーシャンから作られた可能性が示された。

【2019年5月14日 海洋研究開発機構神戸大学

私たちにとって最も身近な天体の一つである月が、太陽系の歴史の中でいつごろどのように地球の衛星となったのかは、はっきりとはわかっていない。偶然地球の近くを通りかかったときに地球にとらえられた、地球とほぼ同時に形成されたといった説があるなか、最も有力と考えられているのが「ジャイアントインパクト(巨大衝突)説」だ。この説によると、46億年ほど前の地球に火星サイズの天体が衝突して岩石が蒸発し、地球の周りにばら撒かれた。その岩石の蒸気が円盤状に原始地球を取り巻き、それらが重力によって集まり、月になったとされている。

ジャイアントインパクト説は地球と月の様々な特徴を説明できるが、説明できない観測結果も報告されている。この説によると、月の材料は地球ではなく、ぶつかってきた側の天体とされているが、アポロ計画で月から持ち帰られた岩石中の元素の同位体比が地球のものとほぼ一致したのだ。つまり、月を構成する岩石がもともと地球のものだったということを示している。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)の細野七月さんの研究チームは、理論と観測の矛盾を解決する要素として、地球の「マグマオーシャン」を提案した。マグマオーシャンとは、大昔の地球の表面を覆っていたとされるマグマの海のことである。液体の岩石は、固体の岩石と性質が大きく異なるため、これまでのシミュレーションとは違った結果が予想される。

細野さんたちは理化学研究所のスーパーコンピューター「京」を用いて大規模な数値シミュレーションを行い、巨大衝突の直後に形成される月の材料となる円盤において、原始地球由来の物質がどの程度の割合になるか、またその割合がマグマオーシャンの有無によりどの程度変わるかを調べた。

数値シミュレーションの結果を可視化した動画(提供:2019 Natsuki Hosono, Hirotaka Nakayama, 4D2U Project, NAOJ)

その結果、マグマオーシャンが衝突時の地球に存在していれば、そのマグマオーシャンが円盤の形成に大きく寄与していることが示された。衝突後、地球のマグマオーシャンからマグマが噴出して、原始地球由来の物質の割合が多い円盤構造を形成する。この円盤から月が形成されるので、月には原始地球由来の物質が多くなる。

月の材料になる物質の質量とその起源の時間進化
月の材料になる物質の質量とその起源の時間進化。赤は原始地球のマグマオーシャン由来の成分、青は衝突した天体由来の成分、グレーは原始地球および衝突した天体の金属コアの成分(提供:JAMSTECリリースページ、以下同)

さらに、天体が地球に衝突する際の角度と速度を様々に変化させたシミュレーションの結果から、マグマオーシャンが存在していれば、円盤中における原始地球由来の物質の割合が約7割以上にもなることも示された。

円盤の質量と原始地球からの物質の割合
様々な衝突角度と衝突速度のシミュレーションで得られた、円盤の質量と、そのうちの原始地球からの物質の割合。赤はマグマオーシャンが存在する場合、青は存在しない場合の結果

これらの結果は、原始地球に巨大衝突が起こった際、原始地球にマグマオーシャンが存在していれば、地球と月の同位体比問題の解決が可能であることを示唆するものである。

ジャイアントインパクト説は、現在の地球と月を考える上で極めて重要な仮説であり、それを元に地球のその後の熱進化などが考えられてきた。今回の計算結果は、これまで考えられてきた初期地球とは異なる結果をもたらすことから、現在の地球がどのように形成されたかを知る上で大きな手がかりとなると考えられる。また、巨大衝突は原始地球だけでなく太陽系内の他の惑星でも起こったと考えられているため、惑星の多様性を説明する上でも、今回の研究成果が示唆を与えると期待されている。

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