宇宙の3次元地図作成に活躍、日蘭共同開発の電波受信機「DESHIMA」

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日本とオランダが共同開発した電波受信機「DESHIMA」がチリ・アステ望遠鏡に搭載された。非常に広い周波数帯域の電波を一度に受信しながら分光を行うことが可能となり、銀河の距離測定など多様な電波天文観測を実現することが期待される。

【2019年8月8日 アタカマサブミリ波望遠鏡実験国立天文台

銀河の距離をもとに作られる宇宙の3次元地図は、宇宙の成り立ちや銀河の進化を探る重要な手がかりになる。その際、銀河までの距離を測定する方法の一つは、電磁波の波長の伸びである「赤方偏移」を調べることだ。宇宙の膨張に伴って遠くの天体が遠ざかることで波長が引き伸ばされ(電波であれば周波数が低下し)、そのずれは遠くの天体ほど大きくなるので、ずれた量がわかれば距離が計算できる。

ただし、1つの分子・原子からの特定の電磁波を観測しただけでは、元の波長(周波数)が何であったかがわからないため、ずれの量を決めることはできない。赤方偏移の測定には複数の分子や原子からの電磁波をとらえる必要がある。また、幅広い周波数帯域の電波を観測することも重要だが、一度に観測できる周波数帯域が狭い従来の受信機では、少しずつ周波数を変えながら観測を繰り返す必要があり、完了までに長い時間が必要だった。

東京大学、国立天文台など日本の研究チームはオランダのデルフト工科大学、オランダ宇宙研究所などと共同で、最先端の超伝導技術を駆使した受信機「DESHIMA(Deep Spectroscopic High-redshift Mapper)」を開発し、チリのアタカマ高地にある国立天文台アステ望遠鏡に搭載した。DESHIMAは、電波を波長ごとに分ける「フィルターバンク」と、電波を超高感度で受信する「MKID(Microwave Kinetic Inductance Detectors)」という2つの技術を組み合わせた世界初の観測装置であり、一度に幅広い周波数帯の電波を分光観測することができる。

「DESHIMA」と開発チーム
アステ望遠鏡に搭載された「DESHIMA」が入った円筒形の真空冷凍容器と開発チーム。名称は江戸時代にオランダと日本の交流の窓口であった長崎県の出島にもちなんでいる(提供:Robert Huiting(オランダ宇宙研究所))

2017年10月から行われたDESHIMAの試験観測では、地球から約2.9億光年彼方にあるくじら座の相互作用銀河「VV 114」がターゲットとされ、周波数339GHzに一酸化炭素分子が放つ電波が検出された。この銀河は過去の観測で赤方偏移が測定されており、DESHIMAでも確かに同じ周波数に電波が検出されたことで、DESHIMAの技術が実際に天体までの距離測定に使えることが実証された。

「VV 114」のスペクトル
活動銀河「VV 114」のスペクトル。一酸化炭素が出す電波はもともと345GHzだが、宇宙膨張による赤方偏移で観測される周波数が339GHzにずれており、そのずれから銀河までの距離を求めることができる(提供:DESHIMA Project Team/Endo et al.、以下同)

さらに、オリオン座大星雲の観測も行われ、一酸化炭素(CO)、ホルミルイオン(HCO+)、シアン化水素(HCN)からの電波を一度に検出することに成功した。空域をスキャンすることで大きく広がっている星雲内の分子分布も同時に描き出すことができ、DESHIMAの広帯域分光能力が実証された。

オリオン座大星雲周辺の分子の分布
オリオン座大星雲周辺の一酸化炭素(CO)、シアン化水素(HCN)、ホルミルイオン(HCO+)の分布。可視光線で見えるオリオン座大星雲は中央下部にある。3つの分子がいずれも強く電波を出しており、とくに一酸化炭素が星雲から南北に大きく広がっていることがわかる

開発チームでは今後、感度の向上や周波数帯の拡大に加え、現在の1画素から16画素の電波分光撮像カメラに拡張することも検討している。実現すれば宇宙の3次元地図をより効率的に作成できるようになり、宇宙初期の銀河で星がどのように作られていたのか、銀河がどのように成長してきたのかといった謎を解明するうえで大きな情報をもたらすことが期待される。

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