オリオン座分子雲の解剖
【2017年6月26日 ハーバード・スミソニアン天体物理学センター】
オリオン座分子雲は若い星や散光星雲、ガスや塵などからなる大きな領域で、その一部であるオリオン座大星雲や馬頭星雲はとくに有名だ。有名で明るく、1500光年と近いところに存在するにもかかわらず、この分子雲の実態はあまりよく知られていない。実態が明らかになっていない理由の一つとして、若い星やガスの動きなどが密集しており、一方で塵が多くの領域を隠しているために見えないことが挙げられる。
米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのViviana Guzmanさん、Karin Obergさんたちの研究チームはスペインのIRAM 30mミリ波望遠鏡を使って、オリオン座分子雲の一角にあたる巨大分子雲「オリオン座B」を観測した。オリオン座Bは典型的な巨大分子雲なので、天の川銀河や他の銀河の中にある分子雲の一般的なモデルとすることができる。
この領域は差し渡し約25光年と大きいため、分子雲の状態を幅広く調べ、様々な活動を統計的に調べることができる。今回の研究では、ガスと塵との詳細な関係を示し、分子線強度の空間的変化が物理状態をどう反映しているかを明らかにした。
まず、ほとんど減光がないところから、減光が強く不透明で赤外線でも見通せないところまで、場所により異なる強さの減光が見られるが、分子雲のどの場所においても分子ガスの量と減光量が大きく関係していることが示された。減光の強いところ(暗いところ)には多くの塵やガスが存在するという従来の考え方どおりの結果である。
また、観測領域の端にある若い大質量星からの紫外線の量とガス密度との間には、関係はあるものの単純ではないこともわかった。
分子線放射と巨大分子雲の環境との関係は、従来考えられているよりも複雑なようだ。オリオン座Bをはじめ巨大分子雲について知るには、ガスの流れなど大きな視点だけでなく、磁場や局所的な化学反応など小さいスケールも重要だということである。
〈参照〉
- ハーバード・スミソニアン天体物理学センター:The Anatomy of Orion
- Astronomy & Astrophysics:The Anatomy of the Orion B Giant Molecular Cloud: A Local Template for Studies of Nearby Galaxies 論文
〈関連リンク〉
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