航空機望遠鏡「SOFIA」で調べる馬頭星雲
【2018年4月11日 NASA】
オリオン座の三ツ星のすぐ東に位置する馬頭星雲は、地球から約1400光年彼方に存在する巨大分子雲「オリオン座B」の一部である。馬頭星雲は太陽約30個分の星を作れるほどの質量を持つ高密度領域で、星や惑星の材料となる冷たい分子雲と、すでに大質量星が誕生し存在している領域のちょうど境界にある。
大質量星からの強烈な放射は、隣接する分子雲を侵食していく。星雲の奥深くに存在する一酸化炭素のような冷たい分子は放射から逃れているが、星雲の表面の分子は放射にさらされ、分子が電離して原子やイオンになるような、星形成に影響を与える反応を引き起こす。
この馬頭星雲での星形成に関して、NASAと独・航空宇宙センターが共同で開発した航空機望遠鏡「SOFIA」で観測されたデータを使用した研究成果が発表された。「SOFIA」は、改造したボーイング747-SPに口径2.5mの望遠鏡を搭載した「空飛ぶ天文台」である。
米・コロラド大学のJohn Ballyさんたちの研究チームは、大質量星からの放射が星雲の中のガスを圧縮し、新たな星形成を引き起こすほど強力であるかどうかを検証するため、SOFIAなどの観測データから星雲中の分子の構造と動きについて調べた。
Ballyさんたちの研究によると、星からの放射は馬頭星雲内の冷たいガスを圧縮する高温プラズマを作り出すものの、その圧縮は新たな星形成の引き金となるには不十分なようだ。放射によって破壊的な電離波が分子雲に衝突したが、分子雲の高密度部分である馬頭星雲によって波が止められてしまったのである。「馬頭星雲の形は、分子雲と電離放射との間で起こるプロセスの動きや速度を物語るものです。分子雲が放射で破壊されるとどんなことが起こるのかを示しています」(Ballyさん)。
馬頭星雲でどのように星が誕生したのか、そして新たな星はなぜ誕生しないのかを理解することが、研究の目的の一つだ。「分子雲の中で最初に生まれた星は、隣接する部分を破壊することによって新たな星の誕生を阻止しているのです」(Ballyさん)。近距離にある馬頭星雲の研究は、遠すぎて詳細な観測が不可能な遠方の銀河における星形成を理解する手がかりにもなる。
また、蘭・ライデン大学のColnelia Pabstさんたちの研究チームは、馬頭星雲の内部や周辺の冷たく暗い領域のガスの構造と明るさを分析した。この領域は、オリオン座Bやオリオン座大星雲に比べるとほとんど星が形成されていないところだ。Pabstさんたちは、星形成率に影響を与えるかもしれない暗い領域の物理状態を理解することを試みた。
その結果、馬頭星雲内のガスの形状や構造、明るさは、これまで考えられていたモデルと一致しないことがわかった。なぜ一致しないのかを調べるにはさらに観測する必要がある。「まだ分子雲の一部を見ただけですが、モデルが示していたことよりも、すべてが複雑です。SOFIAによる美しく貴重なデータは、将来の観測と組み合わせることによって、天の川銀河で星がどのように形成されているかを理解するのに役立ちます。他の銀河の研究にもつながるでしょう」(Pabstさん)。
〈参照〉
- NASA:What’s Happening in Orion’s Horsehead Nebula?
- The Astronomical Journal:Kinematics of the Horsehead Nebula and IC 434 Ionization Front in CO and C+ 論文
- Astronomy & Astrophysics:[ [C II] emission from L1630 in the Orion B molecular cloud](https://www.aanda.org/articles/aa/abs/2017/10/aa30881-17/aa30881-17.html) 論文
〈関連リンク〉
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