成層圏からの天文学、航空機望遠鏡「SOFIA」の成果
NASAと独・航空宇宙センターが共同開発した「空飛ぶ天文台 SOFIA」は、ボーイング747-SPを改造した機体に搭載された口径2.5m赤外線望遠鏡と7つの機器で、成層圏内の高度約14kmの領域を飛行しながら観測を行うシステムである。高い高度を飛ぶことで赤外線をブロックする地球の水蒸気の影響を99%カットすることができるという特長を誇り、28~320μmの波長域である中赤外線と遠赤外線データを取得できる観測施設はSOFIA以外には地上にも宇宙にもない。
SOFIAの観測から得られた塵の粒子や偏光に関するデータは、星形成や星間物質中のガスの冷却、ブラックホールの周囲で磁場が恒星風を発生させる現象などに関する理解が深まる。SOFIA独自の能力を利用した最新の研究成果の数々がアメリカの天文学会年会で発表されている。
米・ノースウェスタン大学のFabio SantosさんたちはSOFIA搭載の高解像度広帯域カメラ「HAWC+」を使い、太陽系に最も近い星形成領域の一つで地球から約424光年の距離に位置する「へびつかい座ρ(ロー)領域」の星間雲における遠赤外線偏光の系統的な違いを初めて観測した。この領域の中心部では若い星の形成が進行中で、一部には惑星も誕生するかもしれない。
米・大学宇宙研究協会のEnrique Lopez-Rodriguezさんたちは「HAWC+」を用いて過去最高の角度分解能で活動銀河核をとらえ、活動銀河核や激しく星形成が進んでいる「スターバースト銀河」の研究のための新しい窓を開いた。53μmの遠赤外線でくじら座の銀河「NGC 1068(M77)」を観測したデータから、銀河の内側の腕に沿って磁気を帯びた腕が存在することが明らかになっている。
SOFIAの研究主幹を務めるJames M. De Buizerさんたちは「SOFIA大質量星形成サーベイ(SOMA)」の一環として、質量が異なり、様々な進化の段階にあり、環境も異なる多数の原始星のサンプルを調べている。目的は大質量星形成プロセス全体に関する情報の取得と、星形成の最新の理論的モデルを確かめて改良につなげることだ。
「大質量星は銀河全体、さらにもっと広範囲にまで大きな影響を及ぼします。大質量星の誕生プロセスは、現代天文学において最も重要な未解決問題の一つなのです」(スウェーデン・チャルマース工科大学 Jonathan Tanさん)。
天の川銀河内に存在する8つの若い大質量星をSOFIAに搭載の高感度赤外線カメラ「FORCAST」で観測し、形成中の大質量星からの放射によって暖められている厚い塵の雲の内部を調べたところ、大質量星の形成には、成長に必要な材料を星に送るガス円盤の上下から吹く強力な磁気を帯びた風の発生を伴うことが明らかになった。
風によって厚い塵の多い雲の中に空洞ができると、星のゆりかごの内部がはっきりと見えるようになる。さまざまな波長で空洞から逃げ出す放射量を計測することで、原始星の構造についての情報が得られ、星形成の理論的モデルの検証が可能になる。
SOFIAを使ったSOMAのための観測は今年夏まで続けられる予定で、天の川銀河内にある50もの大質量星形成領域の観測も計画されている。「大質量星誕生に関する基本的な法則の発見につながる、じゅうぶんな数のサンプルが得られるでしょう」(Tanさん)。
〈参照〉
- NASA:
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