日の当たる月面にも水分子が存在
【2020年11月2日 NASA】
1969年に人類が初めて月を往復したときには、月は乾ききった天体と考えられていた。しかし1990年代になると、逆に水が存在する可能性に注目が集まり始めた。過去20年間で月に送り込まれた周回機や衝突実験機のおかげで、月の極付近に存在する永久影(常に太陽光が当たらない領域)に氷の状態で水が貯蔵されていることは確認された。
水分は永久影だけでなく、太陽光が当たる場所にも含まれる可能性も指摘されていた。複数の探査機が、月の表面に何らかの形で水素(H)が存在することを突き止めていたのだ。しかし、それが水分子(H2O)そのものなのか、それとも水酸基(OH)の形で化合物の一部になっているかは、はっきりわかっていなかった。
米・ハワイ大学のCasey Honniballさんたちの研究チームは、NASAの航空機望遠鏡「SOFIA」を用いた赤外線観測により、太陽光に照らされた場所にも正真正銘の水分子が存在することを突き止めた。SOFIAは口径約2.7mの望遠鏡を搭載した空飛ぶ天文台で、最高高度約1万3000m(成層圏)を飛行できるため、地球の水蒸気にほとんど邪魔されることなく、赤外線で観た宇宙の姿を鮮明にとらえることができる。
SOFIAが観測したのは、月の南半球にあるクラビウスクレーターの中だ。SOFIAに搭載されている微光天体赤外線撮像器「FORCAST(Faint Object infraRed CAmera)」が水分子に特有の波長6.1μmの波長をとらえ、クラビウスクレーター内の砂に水が存在することを発見した。明らかになった水の含有量は100~412ppmで、これは砂1立方メートル当たりにおよそ350ml缶1本分に相当する量の水が含まれていることに相当する。
検出された水の量はサハラ砂漠に含まれる量の100分の1ほどと、ごくわずかではあるが、影となっている場所だけでなく、日が当たる場所にも水が発見されたことで、月全体に水が広く存在している可能性が出てきた。
どうやってその水が形成されたのかは不明だが、起源はいくつか考えられる。たとえば、月面に降り注ぐ微小隕石にわずかながら水が含まれている可能性がある。あるいは、太陽風が月面に水素原子を届け、月の砂に含まれる酸化物と反応して水酸基を形成し、そこへ微小隕石が衝突することで水を生成するという2段階のプロセスもありうる。
水がどのように貯蔵されるのかも気になる問題だ。微小隕石が衝突した際の熱で砂粒が溶け、ビーズ状の構造を形成して水を閉じ込めるのかもしれない。水が砂粒の間に隠れて日光から遮られているという可能性もある。実際に水を抽出するとしたら、後者の方が容易だろう。
将来、月面で有人活動を行うにあたって、水をどのように確保するかは死活問題だ。今後SOFIAは月面上の他の場所で、太陽光が色々な角度から当たっているタイミングで観測を行い、月面上で水がどのように生成・蓄積され移動するのかに迫る。その成果は、月面上の水資源マップを作る上で役立てられるだろう。
〈参照〉
- NASA:NASA's SOFIA Discovers Water on Sunlit Surface of Moon
- Nature Astronomy:Molecular water detected on the sunlit Moon by SOFIA 論文
〈関連リンク〉
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