宇宙最初の環境汚染、予想外の巨大炭素ガス雲

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宇宙誕生後およそ10億年の時代に存在する銀河の周囲に、半径約3万光年におよぶ巨大な炭素ガス雲が存在することが、アルマ望遠鏡の観測データから明らかになった。

【2019年12月19日 アルマ望遠鏡

惑星や生命の材料となる炭素や酸素といった元素は、恒星の内部の核融合反応によって作られ、宇宙に広がっていく。これまでの観測研究により、宇宙誕生から数億年後の銀河内部に、すでにこうした重元素が存在していたことが明らかになっている(参照:「観測史上最遠の合体銀河の証拠」)。しかし、銀河の外にどのくらい重元素が広がっているのか、それらがいつどのように広がったのかは、まだわかっていなかった。

重元素のガスには特定の波長の光を強く放つものがあり、その光は宇宙膨張によって波長が引き伸ばされ、電波となって地球に届く。そこで、東京大学宇宙線研究所の藤本征史さんたちの研究チームは、電波の波長帯で最も明るく見える炭素ガスに注目し、アルマ望遠鏡による銀河の観測データを分析した。

藤本さんたちは、宇宙誕生後の約7~11億年ごろに存在する初期銀河の炭素ガスをとらえたアルマ望遠鏡の観測データを集め、複数の銀河のデータを重ね合せる処理を行って、従来の約5倍に達する高感度のデータを得た。この高感度のデータから、従来の観測ではとらえられなかった微弱な炭素ガスのシグナルが検出され、宇宙誕生後およそ10億年の時代にある銀河の周囲に巨大な炭素ガス雲が存在することが初めて示された。

ガスの広がり
アルマ望遠鏡で観測した18個の銀河の炭素ガスのデータを重ね合わせ(赤)、ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の星の分布画像(青)と合成した擬似カラー画像。炭素ガスが星の分布よりも大きく外側まで広がっていることがわかる(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, Fujimoto et al.)

「初期銀河の周りの漆黒の空間に、半径約3万光年にわたってうっすらと広がった炭素ガス雲が見えてきました。この炭素ガス雲は星の分布よりも約5倍も広がっている、巨大な構造であることがわかってきました」(国立天文台/東京大学宇宙線研究所 大内正己さん)。

この巨大な炭素ガス雲はどのように形成されたのだろうか。「星内部で形成された炭素は、超新星爆発によって周囲にばらまかれていきます。さらに爆発時のエネルギーや、銀河の中心に位置する巨大ブラックホールがもたらす高速のガス流や強力な光によって、炭素は星の周囲にとどまらず、銀河の外、やがては宇宙全体に広がっていったのだと考えられます。私たちはこのような重元素の拡散、さながら宇宙最初の環境汚染の現場をとらえたのです」(ヨーロッパ南天天文台 Rob Ivisonさん)。

「複数のモデルと比較しましたが、観測結果が示す巨大な炭素ガス雲のような十分な広がりは再現されませんでした。今回の発見を理解するには、これまでの理論モデルに欠けていた新しい物理機構が必要とされます」(伊・ピサ国立大学 Andrea Pallottiniさん)。

これまでの理論モデルでは、宇宙初期の銀河の周りに巨大な炭素ガス雲が存在するとは予言されていなかったため、今回の研究結果は従来の宇宙進化の考え方に一石を投じるものとなる。「宇宙初期にできた銀河では、私たちが予想していたよりもはるかに多くのガスが、超新星爆発やブラックホールのエネルギーによって宇宙空間に吹き飛ばされていたのかもしれません」(大阪大学 長峯健太郎さん)。

銀河を大きく取り囲む炭素ガスの想像図
銀河を大きく取り囲む炭素ガスの想像図(提供:国立天文台)