月から流出する炭素を発見

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月周回衛星「かぐや」の観測データから、月の表面全体から炭素が流出していることが明らかになった。月が誕生したときから炭素が存在していたことを示す結果で、月の誕生と進化について見直す契機となりうる。

【2020年5月14日 大阪大学

原始地球に火星サイズの天体が衝突したことで月が誕生したとする「ジャイアントインパクト(巨大衝突)説」によれば、誕生直後の月は火の玉のような高温状態で、水などの揮発性物質は残らないと考えられていた。実際、約50年前のアポロ計画によって持ち帰られた岩石試料からは揮発性物質が見つからず、ジャイアントインパクト説の証拠の一つともなっていた。

最近になって、高精度化した分析装置により、アポロの試料からわずかながら水や炭素などの揮発性物質が発見されたことが報告され始めた。そして2019年には、月を周回するNASAの探査機「LADEE」が水を直接観測したという発表があった(参照:「流星体の衝突で月面から水蒸気が噴出」)。しかし炭素については、周回衛星の観測からは発見されていなかった。

大阪大学大学院理学研究科の横田勝一郎さんたちの研究グループは、月周回衛星「かぐや」に搭載されたプラズマ質量分析装置の観測データを調べ、月の表面全体から恒常的に炭素イオンが流出していることを世界で初めて明らかにした。月が誕生したときから炭素が存在することを強く示唆する成果である。

月から流出する炭素のイメージ
月から流出する炭素のイメージ。太陽照射を受けて炭素が月表面から放出し電離され、周囲の電場方向(図中では上向き)に運動する(提供:プレスリリースより、以下同)

観測から炭素イオンの流出量を見積もったところ、新しい年代の海からの流量が高地からの流量よりも大きいという地域差があることも明らかになった。炭素は太陽風や宇宙塵からも月に運ばれるが、このような地域差は月が元々炭素を含有していないと説明がつかないものだ。

月から流出する炭素イオンの流出量マップ
月の表側(左図)、月の裏側(右図)の炭素の流出量マップ。色は流出量を示しており、海や高地などに依存している

今回の炭素の発見は、月の誕生時に揮発性物質はなかったのではなく、ある程度含まれていたという観点で月の誕生と進化を見直す、大きなきっかけとなりうる。

2025年に水星に到着予定の探査機「ベピコロンボ/MIO(みお)」や、計画が進められている火星の衛星フォボスの探査機「MMX」でも、「かぐや」と同じような質量分析装置による観測が予定されている。水星やフォボスから流出するイオンを観測することで、それぞれの天体の起源や進化に迫れる可能性もある。

「質量分析装置は実験室での隕石やアポロ/『はやぶさ』サンプル分析などに利用されていますが、太陽系探査機に搭載して現場で分析することもできるようになってきました。今回の観測は私が学生のころに開発した質量分析装置で行われましたが、さらに高性能化した質量分析装置も現在開発中です。今後の太陽系探査で質量分析装置の活躍がますます期待されます」(横田さん)。