月の表裏の違いは自己増幅した
【2020年7月10日 東京工業大学】
月は自転周期と公転周期が一致しているため、いつも地球に同じ面を向けている。地球から見える面が便宜上、月の「表(おもて)」とされていて、この表側に色が濃い部分と薄い部分があることは肉眼でも確認できる。このうち濃い部分は、月の性質がよくわかっていなかった時代のなごりで「海」とも呼ばれる。一方、地球からは見えない月の裏側には、この海がほとんど存在しない。
NASAのアポロ計画で382kgにもおよぶ大量の月の石が地球に持ち帰られたことにより、月の海の岩石は特徴的な化学組成を持ち、火山活動に起因するものであることがわかっている。これらの特徴的な岩石はカリウム(K)、希土類元素(Rare Earth Elements)、およびリン(P)を豊富に含んでおり、「KREEP」と名付けられている。
数十年にわたる観測と探査によって、月は従来考えられていたよりもはるかに活発で、10億年前には火山活動や磁気活動があったことが明らかになっている。しかし、なぜ火山活動の痕跡やKREEPは月の表側にだけあり裏側にはほとんど存在しないのかは、いまだに疑問として残されたままだ。
東京工業大学のMatthieu Laneuvilleさんたちの研究チームは、観測、室内実験、モデリングを組み合わせ、月が形成された時点で存在した非対称性が、その後も数十億年にわたって月の表裏における地質活動の違いを増幅させていたことを明らかにした。
KREEPはカリウム、トリウム、ウランといった放射性元素を多く含んでおり、これらの元素が放射性崩壊を起こす際に発生する熱がマグマを作る可能性が過去の研究で指摘されたいた。ただ、これだけでは月の表側全体で火山活動が盛んになった原因を説明するには不十分だった。
Laneuvilleさんたちは実験により、KREEPが含まれることで岩石が溶融するのに必要な温度が下がることを突き止めた。これを考慮に入れれば、放射性崩壊だけを考慮した従来の想定よりも火山活動が4~13倍活発になることも示された。ほとんどの溶岩流は月の初期段階で生じたため、この結果は月の進化のタイミングや月で生じた様々な地質現象の順序にも制約を与えることになる。
「浸食の影響が極めて少ない月面は太陽系初期段階からの地質学的記録を残しています。特に、表側にある領域は、月の他の場所とは異なり、ウランやトリウムなどの放射性元素が濃集しています。このような局所的な濃集の原因を理解できれば、月形成初期段階の解明に役立ち、その結果、原始地球環境の解明につながります」(Laneuvilleさん)。
今回の研究結果はおよそ45億年前に月が形成されて以来、高濃度のKREEP成分を含む領域が月の進化に影響を与えてきたことを示唆するものだ。Laneuvilleさんは、地質的な非対称性が時間とともに増幅された証拠が太陽系の他の衛星でも発見される可能性があり、宇宙全体を通して岩石の多い天体のあらゆるところに存在しているかもしれないと考えている。
〈参照〉
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