7月2日の火球に伴う隕石を千葉県で発見
【2020年7月16日 国立科学博物館/SonotaCo Network】
7月2日午前2時32分、関東地方上空に満月よりも明るい火球が出現した。火球は爆発を繰り返しながら西から東へと移動し、その様子は自動観測カメラや一般の防犯カメラ、定点観測カメラなどによって記録されていた。また、火球出現の数分後には衝撃波による低く大きな音が響き、広い範囲で聞こえたという情報が深夜にもかかわらずリアルタイムで報告された。
流星や高高度発光現象の観測ネットワークである「SonotaCo Network」では、関東をはじめ長野県や兵庫県などでも撮影された9本の映像を分析し、火球に伴う隕石が落下した可能性を指摘して、その位置を推定した。
この火球に伴うとみられる隕石が、SonotaCo Networkが推定した範囲内である千葉県習志野市内で発見された。火球出現時に大きな音を聞いた住民が、2日の朝に自宅前で石の破片を発見したという。さらに4日には2つ目の破片も見つかり、住民からの問い合わせを受けた千葉県立中央博物館が実物を確認後、国立科学博物館で分析が行われた。
7月6日より約1週間にわたってガンマ線を測定したところ、宇宙空間で宇宙線に晒されたことで生成された放射性同位体が検出され、これらの破片が最近落下した隕石であることが確認された。国内への隕石の落下は2018年の小牧隕石以来2年ぶりで、確認されたものとしては53番目となる。
2つの破片はきれいに合わさる部分があり、1つの隕石が割れたものと考えられる。その外観から、普通コンドライト隕石の一種とみられている。現在、鉱物や貴ガスの詳細な分析が進められており、分析によって隕石の分類が確定した後、「習志野隕石」として国際隕石学会に登録申請される予定だ。
今回の火球は多数の地点で観測されていたことから、ほぼ正確な軌道が計算可能である。火球の光学観測から隕石発見前の軌道計算を行い、その予測に基づく落下推定地域で隕石が回収されることは非常に珍しく、国内では今回が初めての例だ。世界全体でも、隕石回収後に軌道が判明したものを含めても42個しかない。
隕石の経路が精度よく計算できると、地球に飛来するまでの正確な軌道が明らかになり、隕石の元となった母天体の推定も可能になる。現時点で隕石の母天体として可能性のある小惑星は2020 LT1、2008 WH96、2019 NP1の3つが挙げられているが、同定には至っていない。
今回発見されたものは落下した隕石の一部に過ぎないとみられており、予想より広い地域に様々な質量の隕石が落下している可能性も考えられる。多くの隕石が発見されれば、今後の隕石落下計算精度の向上に役立つだけでなく、母天体と推定された小惑星の研究にもつながる。SonotaCo Networkではリリース中で「待ち受け型サンプルリターン」という言葉を用いて、隕石回収に詳細な火球軌道計算が伴った今回のような研究の成果や進展に期待している。
※「星ナビ」2020年9月号(8月5日発売)でも詳しい解説記事を掲載予定です。
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