リュウグウ粒子からガス成分を検出
探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星リュウグウの試料を分析しているJAXA内の「初期分析チーム」のうち、九州大学の岡崎隆司さんを中心とする「揮発性成分分析チーム」の分析結果が新たに発表された。
リュウグウ粒子から貴ガスを検出
揮発性成分分析チームでは、リュウグウ粒子のうち直径1mm弱(0.3g以下)のものを24個使い、一粒ずつペレット状に固めて表面の観察や分光を行ってから、これらのペレットを真空中で段階的に加熱して、出てきたガスの種類や同位体組成の分析を行った。
その結果、第1回タッチダウンで採取された「A室試料」と、人工クレーターを生成した後の第2回タッチダウンで採取された「C室試料」の両方から、太陽系が誕生する前に存在していた星間物質(プレソーラー粒子)に由来すると考えられるアルゴン・クリプトン・キセノンの同位体が検出された。これらの同位体の組成は、最も始原的な炭素質隕石とされる「CIコンドライト」という隕石に似ているが、検出されたこれらの貴ガスの濃度は、過去に見つかっているどの隕石よりも高かった。
このことから、リュウグウの母天体を形づくった物質は、CIコンドライトと似ているが、それよりさらに始原的な物質だったと考えられるという。
また、太陽から太陽風として飛来するヘリウム・ネオンや、太陽系の外から降りそそぐ「銀河宇宙線」に特有のネオンの同位体も検出された。ただし、太陽風由来の貴ガスが多く検出されたのはA室の粒子の10個中2個だけで、C室の粒子からは検出されなかった。検出された貴ガスの量を元に、A室の粒子が太陽風にさらされていた年数を見積もったところ、およそ数十年以下という結果になった。
一般に、太陽風の粒子は天体に衝突しても0.1μmほどの深さまでしか入り込めないので、太陽風由来の貴ガスが検出されたリュウグウ粒子は、リュウグウのまさに表面にあった物質だと考えられる。これら表層の物質は、リュウグウ表面にあった期間がかなり短いようだ。
一方、銀河宇宙線に由来するネオンの量から、試料が銀河宇宙線にさらされていた年数を見積もったところ、こちらは約500万年という結果になった。銀河宇宙線は天体の表面から1-2mまで入り込むため、この結果は、リュウグウの深さ1-2mまでの物質は約500万年にわたってあまり大きく混ざるような変化を経験していないことを示唆するものだ。研究チームでは、もしリュウグウが現在よりも外側の小惑星帯などで誕生したのだとすれば、そこから現在の軌道まで移動したのは約500万年前だったのではないか、と考えている。
サンプルコンテナ内の空間からも貴ガスを検出
揮発性成分分析チームでは、2020年12月6日に「はやぶさ2」のカプセルがオーストラリアで回収されてから約30時間後に、サンプルコンテナの内部にあったガス成分を現地で採取している。今回、このガスについても詳しい分析が行われた。
本来、サンプルコンテナの内部は真空のはずだが、採取されたガスは圧力にして約68Pa(約1500分の1気圧)に相当する量があった。このガスの成分を調べたところ、地球の大気成分に加えて、太陽風に由来するヘリウムとネオンの同位体が含まれていることがわかった。これによって、このガスは確かにリュウグウの物質に含まれていた気体であることが証明された。小惑星からガス成分を気体の状態のまま地球に持ち帰ったのは、「はやぶさ2」が世界初となる。
太陽風由来の貴ガスがサンプルコンテナ内にあった理由として、研究チームでは、コンテナに格納されたリュウグウ試料の粒子同士がこすれあうことで、粒子のごく浅い表面に捕らえられていた太陽風の原子核が放出されたものではないかと推定している。
〈参照〉
- JAXA:
- 九州大学:
- Science:Noble gases and nitrogen in samples of asteroid Ryugu record its volatile sources and recent surface evolution 論文
- Science Advances:First asteroid gas sample delivered by the Hayabusa2 mission: A treasure box from Ryugu 論文
〈関連リンク〉
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