リュウグウ試料から始原的な塩と有機硫黄分子群を発見
【2023年9月21日 海洋研究開発機構】
探査機「はやぶさ2」が訪れた小惑星リュウグウは、炭素を多く含む始原的な小惑星で、小惑星のなかで最も代表的なC型に属する。「はやぶさ2」が地球に持ち帰った試料の初期分析からは、様々な性状や含有物、履歴などが明らかになっている。
海洋研究開発機構の吉村寿紘さんたちの研究チームでは、初期状態の炭素、水素、窒素、酸素、硫黄など有機物を構成する軽元素組成に物理・化学的な作用が加わった場合、初生的な有機物や分子進化の姿(参照:「炭素質隕石から遺伝子の主要核酸塩基5種を検出」/「小惑星リュウグウに核酸塩基とビタミンが存在!」)や、水質変成による「始原的な塩(Salt)」を観測できると予測していた。
今回、吉村さんたちはリュウグウ試料を複数種類の溶媒で抽出し、可溶成分の分析を実施した。その結果、最も溶解しやすい成分を反映する熱水抽出物に、ナトリウムイオン(Na+)が非常に多く含まれていることがわかった。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働き、その一部は揮発性の低分子有機物など(参照:「炭素質小惑星(162173)リュウグウの試料中の可溶性有機分子」)とのイオン結合によって形成されると考えられている。
さらに、イオンクロマトグラフィー/超高分解能質量分析法によって、多種多様な有機硫黄分子群が新たに同定され、それらが幅広い価数をもつイオン種や析出する無機塩と共存していることが判明した。これらの有機硫黄分子群は、リュウグウに元々存在した還元的な鉄やニッケルの硫化物が水質変成を受けて化学状態が変化し、親水性や両親媒性をもつ様々な硫黄を含む有機分子へと化学進化を遂げてできたものと考えられている。また、難溶性の硫黄同素体へ変化する準安定な親水性硫黄分子群も新たに見つかり、多様な化学反応が示された。
今回の成果は、初期の太陽系において初生的な物質がどのように存在し進化してきたのかを紐解く手がかりとなる。地球や海、生命を構成する物質の化学進化の道筋を探求する上でも重要な知見だ。
まもなくNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が、リュウグウに似た性質を持つ小惑星ベンヌのサンプルを地球に届ける予定だ。また、JAXAが主導する火星衛星サンプルリターン計画「MMX」など、新たな地球外サンプルリターンプロジェクトも進行している。これらの探査ミッションや、試料の分析研究の進展により、地球誕生前の太陽系物質科学や分子進化の統合的な理解が深まると期待される。
〈参照〉
- 海洋研究開発機構:小惑星リュウグウから始原的な「塩(Salt)」と有機硫黄分子群を発見
- Nature Communications:Chemical evolution of primordial salts and organic sulfur molecules in the asteroid 162173 Ryugu 論文
〈関連リンク〉
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