小惑星由来の隕石、太陽系初期の歴史に一石を投じる

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小惑星ベスタ由来の隕石が40億年以上前の衝突年代を示した。太陽系で大量の天体衝突があったとされる「後期重爆撃期」の年代より古い。

【2020年9月2日 広島大学

地球をはじめとする太陽系の惑星形成は45億年前までにほぼ完了したとされる。1970年代にアポロ計画で持ち帰られた月の石の分析では、その多くが「後期重爆撃期」と呼ばれる約39億年前の天体衝突を記録しており、この時期に地球や月に大量の隕石が降り注いだと考えられている。この後期重爆撃は月だけではなく、地球や火星、さらには小惑星帯など太陽系の広範囲に及ぶ隕石衝突現象だったと予想されるようになっている。しかし、この説には惑星軌道計算やクレーター年代分布との矛盾がみられることも指摘されており、太陽系初期の天体衝突史はおよそ50年にわたり論争が続いてきた。

広島大学大学院先進理工系科学研究科の小池みずほさんたちの研究グループは大型の小惑星ベスタ由来の隕石グループに注目し、隕石の年代を測定した。多くの隕石の元である小惑星は46億年前に誕生し、地球のような地殻変動や風化を経験せず、太陽系初期の物質を残している。その一部である隕石は「太陽系の化石」であり、地球史以前の時代を知る手がかりとなる。

これまでに行われてきたベスタの衝突史の研究では、アルゴン同位体を用いた年代測定を元に議論がなされていた。貴ガスであるアルゴンは古い情報を保持しにくく、太古の衝突が後のイベントで「上書き」されてしまうおそれがある。そこで研究チームでは、ナノスケール二次イオン質量分析計(ナノシムス)の局所分析技術を活用し、隕石中の微小なリン酸塩鉱物粒子が記録するウランー鉛年代を調べた。この手法により「上書き」のリスクを抑えて衝突年代を復元することが可能である。

電子顕微鏡で見た隕石
電子顕微鏡で見た隕石。隕石A(隕石名:Juvinas)のリン酸塩鉱物は41.5億年前の隕石衝突、隕石B(隕石名:Camel Donga)は44億年前の隕石衝突を記録していた。破線で囲んだ粒がリン酸塩鉱物。赤い丸はナノスケール二次イオン質量分析計による分析位置を表す(提供:プレスリリースより、以下同)

その結果、複数の隕石が約44億年~41.5億年前の衝突年代を示し、この時代にベスタに大量の隕石が衝突したことがわかった。一方、後期重爆撃期に相当する39億年前の衝突の形跡は、今回の調査では1件も見られなかった。ベスタは39億年前の後期重爆撃期を「目撃」しておらず、むしろそれより古い時代である太陽系初期に活発な隕石衝突があったことを示唆する結果である。

ベスタ由来の隕石グループの年代分布
ベスタ由来の隕石グループの年代分布。赤い四角は今回の研究結果、その他は文献値を示す。複数の隕石が約44億年~41.5億年前の衝突を記録している。一方、約39億年前の隕石衝突を示唆するデータはアルゴン年代のみであり、アルゴンが「上書き」された結果の見かけ上の記録だと考えられる

隕石衝突は、惑星の環境変動や生命進化を引き起こす。特に後期重爆撃期にあたる約39億年前は、地球では最古の生命が誕生し、火星も温暖で海や湖が広がっていたとされる時期だ。小惑星が受けた隕石衝突のピークはこれまで推測されてきた約39億年前より数億年古いことを示す今回の結果は、「小惑星の衝突史」にとどまらず、地球を含めた太陽系初期の歴史の大幅修正につながる可能性がある。今後のさらなる調査によって、より普遍的な太陽系の衝突史が解明され、太陽系最古の生命環境の理解も進むことが期待される。