月はほんの数時間で作られたかもしれない
【2022年10月11日 NASA】
月が生まれた原因に関する最も有力な仮説がジャイアントインパクト(巨大衝突)説だ。この説によれば、地球が作られて間もないころに、火星ほどの大きさの天体「テイア」が衝突し、飛び散った物質の中から月が形成されたとされる。
地球にテイアが衝突して月が誕生する過程をシミュレーションで再現しようとする研究は何度も行われてきたが、ほとんどの場合、飛び散った破片が軌道上で集積して月が形成されるまでは数か月から数年かかることが示唆されている。これに対して、NASAエイムズ研究センターのJacob Kegerreisさんたちの研究チームは、月はわずか数時間でできたとする論文を発表した。従来のシミュレーションでは10万~100万個の粒子を用いて衝突の過程を計算することが多かったのに対し、Kegerreisさんたちは1億個の粒子を使い、過去最高の解像度でシミュレーションを実行している。
今回のシミュレーションは、これまでジャイアントインパクト説が抱えていた問題を克服できるかもしれない。
月と地球の組成はよく似ていて、月から持ち帰られた岩石の成分は火星や他の場所の岩石と比べてはるかに地球のものと類似していることが知られている。だが従来のジャイアントインパクト説では、衝突によって飛び散ったテイアの破片が月になったので、原始地球の物質はほとんど月に含まれていない。この場合、現在の地球と月の組成が類似しているのは、テイアと原始地球の組成がたまたま似ていたからだということになるが、その可能性はかなり低い。
組成の一致を説明するための仮説として、衝突で蒸発した岩石の渦から月が生まれたとするものがあるが、このシナリオでは月の公転軌道が地球の自転方向に対して傾いている理由を説明しにくい。
一方、今回のシミュレーション結果では衝突の破片は粉々にはならず、外側は熱で溶けていても内側は完全には溶けていない。そのため、テイア由来の岩石を内側に封じ込めたまま外側には地球からの成分が溶け込んだので、地球と月の表面で似た成分の岩石が見つかることが説明できる。また、従来の計算では地球から一定距離以内にある破片は再び落下してしまうが、破片同士の相互作用で一部が安定した軌道へ飛ばされうることが示された。そこから最終的に現在の月の軌道となることも説明できる。
宇宙において衝突はありふれた現象で、惑星系が形成され進化していく過程を理解する上で欠かせない要素だ。「月の誕生について知れば知るほど、私たちの地球の進化について新たに気づくことができます。絡み合う両者の歴史は、似ていたり全く異なったりする衝突に左右された他の惑星の物語と通ずるものがあるかもしれません」(英・ダラム大学 Vincent Ekeさん)。
〈参照〉
- NASA:Collision May Have Formed the Moon in Mere Hours, Simulations Reveal
- The Astrophysical Journal Letters:Immediate Origin of the Moon as a Post-impact Satellite 論文
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