太陽面プラズマ噴出現象の前兆を発見
【2017年7月19日 京都大学】
太陽面上では、しばしばコロナ質量放出(CME)と呼ばれる爆発現象が発生し、宇宙空間に大量のプラズマが放出されている。こうした爆発現象は人工衛星の故障や大規模停電という形で大きな影響を及ぼすことが危惧されており、世界中で爆発現象の予測研究が行われている。
CMEを伴う現象の一つ「フィラメント噴出」では、太陽の最外層大気であるコロナ中に浮かぶ低温高密な帯状のプラズマ(フィラメント)が、磁場の不安定化に伴って噴出する。そのフィラメント噴出の前には、フィラメントがゆっくりと上昇したり内部のプラズマが活発に運動したりと「噴出の前兆」とみなせるような様々な動きを示す。この動きが噴出の前兆となり得ることは知られていたものの、どのような動きが噴出に繋がるのか予測に応用した例はなかった。
京都大学の関大吉さんたちの研究グループは京都大学飛騨天文台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)に設置されている太陽全面画像観測装置「SDDI(Solar Dynamics Doppler Imager)」を用いて、フィラメントの動きを観測した。SDDIは太陽観測によく使われるHα線波長の付近において世界で最も広範囲な波長域を最も細かい間隔で観測しており、フィラメントの微小な動きの小さな速度から秒速400kmという猛スピードな噴出速度まで世界最高精度で観測することができる。
SDDIのデータを利用し、独自の方法で「フィラメントの小スケールな内部運動の活発さ」を定量化したうえで、この値の時間変化を追跡したところ、フィラメントが安定している時(=フィラメントが噴出するかなり前)には、この値がほぼ一定の低い値を示していたのに対し、噴出の約1時間前から値が急激に上昇することが明らかになった。フィラメントの小スケールの内部運動を定量的に追跡することで、噴出を予測できることを示唆するものだ。
現在、CMEなど太陽面爆発現象の予測は主に人工衛星データに基づいて行われているが、太陽面爆発の影響で人工衛星が壊滅的状況に陥ってしまう可能性も少なくない。そうした際にも爆発予測を行える体制を構築するためには、爆発の影響を(宇宙空間ほどは)受けない地上望遠鏡による予測体制が必要となる。今回の成果は地上望遠鏡のみを用いてフィラメント噴出の予測ができる可能性を示すものであり、太陽面爆発現象の安定した予測や監視体制の確立に貢献すると期待される。
今回の成果はあくまでも一例のみに対して行われたケーススタディーであるため、「フィラメント噴出の約1時間前に内部運動が活発化する現象」が一般に見られるかどうか、噴出の前兆として予測に活用できるかどうかは議論の余地がある。研究チームでは今回の評価手法を別のフィラメント噴出に適用し、本当に予測に活用できるか検証を行う予定だ。
〈参照〉
- 京都大学:太陽面プラズマ噴出現象の前兆を発見 -地上望遠鏡を用いた太陽面爆発予測に向けて-
- The Astrophysical Journal Letters:Increase in the Amplitude of Line-of-sight Velocities of the Small-scale Motions in a Solar Filament before Eruption 論文
〈関連リンク〉
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