月隕石に「モガナイト」発見、月の地下に大量の氷が存在する可能性

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月隕石から「モガナイト」と呼ばれる、生成に水が不可欠な鉱物が発見された。月の地下に大量の水氷が埋蔵されている可能性を示唆するものだ。

【2018年5月9日 東北大学

NASAの探査機「エルクロス」などの探査により、月の極域には大量の水氷が存在していることが知られている。月の水を研究することは、科学的な意味だけでなく、将来の有人探査や人類が月で居住する上での飲料水などの観点からも重要だ。水が月のどこに集まっているのか、その起源は何かを突き止めるため、日本を含む世界各国が様々な探査計画を検討している。

シミュレーション研究によると、月の水は温度の低い地下数mの領域に溜まりやすい性質を持っていると予想されているが、周回探査機から観測できるのは表面から1m程度の深さまでであるため、それより深いところに水が存在するかどうかについては、ほとんど手がかりが得られていない。

東北大学学際科学フロンティア研究所・理学研究科の鹿山雅裕さんたちの研究チームは、月から地球に飛来した13種類の月隕石に対して、電子顕微鏡などを使った微小部分析を行った。すると、2005年にアフリカ北西部で発見された「NWA 2727」と呼ばれる月隕石から、「モガナイト」と呼ばれる鉱物が検出された。地球外物質でモガナイトが見つかったのは初めてのことだ。

月隕石「NWA 2727」
月隕石「NWA 2727」(提供:東北大学大学院理学研究科・理学部リリースページより)

過去の合成実験によると、モガナイトは高い圧力条件でアルカリ性のケイ酸水溶液から沈殿してできることがわかっている。その沈殿反応には水が不可欠であることから、水が豊かな地球では堆積岩に広く分布していることが地質調査から判明している。今回、月隕石からモガナイトが発見されたことにより、月でも同様の水の活動(水と岩石との反応や水からの沈殿)が生じていたことが明らかになった。

月隕石と地球のモガナイトのデータ比較によると、月隕石中のモガナイトの沈殿過程には、月の外からアルカリ性の水がもたらされることと、月の比較的温度が高い場所でその水が蒸発することの両方が必要となることがわかった。このことから研究チームでは、月への水の供給プロセスとモガナイトの沈殿に関する以下のようなモデルを提案している。

  1. 約30億年前に、月のプロセラルム盆地(月のウサギ模様のほぼ全域にわたる盆地)で、月隕石の母体となる岩体がマグマから固化(下図左上)。
  2. 27億年前以降に、プロセラルム盆地にアルカリ性の水を豊富に含む炭素質コンドライトが衝突(下図 (i))。
  3. 衝突で形成されたクレーターの内部が、放出された月の地殻の一部や炭素質コンドライトの破片で埋まる。その後、クレーターの表面から底部にかけての領域で水が捕縛(下図 (ii))。
  4. 太陽光が当たる表面では水が蒸発してモガナイトを沈殿。地下数m以深やクレーターの影など低温環境では水が氷として残存(1億3000万年前?)(下図 (iii))。
  5. 100~3000万年前までに起こった巨大天体の衝突で、クレーターの一部の岩石が宇宙へ放出(下図 (iv))。
  6. 1万7000年前に、岩石が北西アフリカの砂漠に月隕石として落下(下図左下)。

月への水の供給とモガナイトの沈殿の概念図
月への水の供給とモガナイトの沈殿の概念図(提供:株式会社SASMAI-GEO-SCIENCE 笹岡美穂)

このモデルに基づくと、モガナイトの沈殿に必要な水の量は少なくとも岩石1m3あたり18.8リットル以上となる。

また、このモデルによれば、月の表面では太陽光の熱で水が蒸発してモガナイトが作られる一方で、温度が非常に低い地下やクレーターの影では水は氷となる。シミュレーションの結果から、月の地下の氷は数十億年以上も残り続けることが判明しているので、現在もプロセラルム盆地の地下には大量の水氷が眠っていることになる。これほど大量の水氷が月で報告された例は、月の極域以外では初のことだ。

研究チームでは今後、未調査の月隕石やアポロ・ルナ計画で回収された月の試料の微小部分析を行い、そこから水や氷の痕跡を探る研究を予定している。研究が進むことで月の水や氷に関してさらなる事実が明らかにされ、月の探査計画の推進に繋がる科学データが得られることが期待される。