正真正銘の「三重連星」クエーサー

【2007年1月19日 W. M. Keck Observatory

クエーサーは、恒星数億個にも達する超巨大ブラックホールを原動力として普通の銀河数個分もの光を放ち続けている、とてつもなく規模の大きな天体だ。そんなクエーサーにも、恒星のように「連星」を形成しているものが見つかっている。今年に入り、さらに「三重連星」のクエーサーが見つかったと発表された。


(LBQS 1429-008)

ケック天文台の10メートル望遠鏡が赤外線で撮影したLBQS 1429-008の画像。矢印で示された3つのクエーサーは、明るい順にA,B,C。クリックで拡大(提供:Caltech/EPFL)

1月上旬に開かれていたアメリカ天文学会の会合で発見を報告したのは、アメリカとスイスの研究者からなるチーム。これまでに知られているクエーサー(解説参照)はおよそ10万個で、最近になって「連星」のクエーサーが数十個発見されている。だが、「三重連星」クエーサーが見つかったのは初めてのことだ。

ここで気をつけなければならないのは、LBQS 1429-008と呼ばれるこの天体が「三重」クエーサーではなくて「三重連星」クエーサーだという点である。見かけ上とても接近して見えるクエーサーは多い。なぜなら、クエーサーの手前に銀河団のような巨大な質量を持つ天体が存在すると、クエーサーが複数に分裂して見えるからだ。「重力レンズ」と呼ばれる、手前の天体の強い重力が奥からの光を曲げてしまう効果が働くのである。重力レンズによって複数個に見える遠方のクエーサー、すなわち「見かけの多重クエーサー」の例は何百個も存在する。

3つのうち一番明るいクエーサー、LBQS 1429-008 Aは、1989年に別の研究チームによって発見された。このときすでに、同じ視野に2個目のクエーサーLBQS 1429-008 Bもとらえられていた。しかし、当時は重力レンズによる像として発表されている。この見解に複数の研究者が疑義を挟み、近年になって確かにAとBは別々の、しかも現実に接近したクエーサーであると確認された。

今回の研究チームは、LBQS 1429-008をハワイ・マウナケア山頂のケック天文台10メートル望遠鏡などで観測した。そして、3個目のクエーサーLBQS 1429-008 Cが見つかったのだ。スペクトルなどの測定から、Cもまた、AやBとは独立かつ接近したクエーサーだとしている。

LBQS 1429-008はわれわれから105億光年の距離にある。すなわち、現在から105億年前の宇宙の住人だ。研究チームによれば、当時は銀河どうしの接近と相互作用が一番盛んだった時期だという。

そもそもクエーサーは、超巨大ブラックホールにガスが流れ込む際に解放された重力エネルギーで輝いているとされている。このプロセスがとりわけ強く働くのは、超巨大ブラックホールを抱える銀河に別の銀河が近づいたときだ。そのような性質をもったクエーサーが、さらに「連星」や「三重連星」としてはるか遠くの宇宙で発見されていることは、確かに昔の宇宙が混雑していたことを物語っている。

クエーサー

ひじょうに遠方にあって通常の銀河数十個分のエネルギーを放出していると考えられている「クエーサー」と呼ばれる天体がある。観測されているクエーサーはもっとも近くても8億光年かなたにある。正体は今もって謎だが、大質量ブラックホールをエネルギー源としているとする説が有力だ。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.92 クエーサーって何? より一部抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])