ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した銀河の「周り」の興味深い構造
【2007年2月14日 Hubble newscenter】
NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した銀河団Abell S0740および中心銀河ESO 325-G004の画像が公開された。ESO 325-G004の周りは興味深い。「銀河の周辺」「銀河内の周縁部」「銀河中心核の周り」の3重の意味で。
この画像は、HSTの掃天観測用高性能カメラ(ACS)が2005年1月と2006年2月に撮影したデータから合成された。
Abell S0740はケンタウルス座の方向4億5000万光年の距離にある銀河団だ。中心には太陽1000億個分の質量を持つ楕円銀河「ESO 325-G004」が構えていて、画像でも中央上よりでひときわ大きく見えているのがわかる。
ESO 325-G004を取り巻く銀河の中にはAbell S0740に所属していない(手前や奥の銀河が重なっているだけの)ものも存在すると考えられるが、とにかく多様な形をしている。銀河は渦巻銀河や楕円銀河(解説参照)などに分類できるが、ここに写っている銀河には「紡錘銀河」(画像最上部やや左)や「蝶ネクタイ銀河」(ESO 325-G004の左下)とでも呼びたくなるような奇妙なものもある。
だが、研究者の注目が一番集まっているのは、やはり中心のESO 325-G004だ。
ESO 325-G004の中心核がとりわけ明るく見えているが、その外側にもハロー(銀河を包み込む周縁部の構造)が広がっていて、数十万個の星が密集した「球状星団」が何千個も散らばっている。球状星団はESO 325-G004の手前にある恒星や奥にある銀河と重なって見えるが、れっきとしたESO 325-G004の一部だ。数百万年かけて中心核の周りを回っている。
さらに興味深いのは、そのほかならぬ中心核だ。拡大してみると、中心核の周りにはいくつかの弧が見られる。これは実在する弧ではなく、われわれから見てESO 325-G004の反対側にある小さな銀河の光が、中心核の強い重力で曲げられてこのような像を作っているのだ。アインシュタインが理論的に予言した「重力レンズ」と呼ばれる効果である。どんな天体でも重力によって多少光を曲げることができるが、奥の天体の像がゆがんで弧やリングに見えるほど強力な重力レンズ源はESO 325-G004よりも近くにはないという。
地球にじゅうぶん近いおかげで、ESO 325-G004を構成する星の動きを観測することによって中心核の質量が求められる。これを中心核の周辺にできた像と比較することで、ESO 325-G004の構造や重力レンズの働き方について詳しく研究できるというわけだ。
渦巻銀河
系外銀河の中で、星や星間物質が、凸レンズ状の中心部のまわりに渦巻き状の腕として分布する銀河のこと。中心部の球状の構造をバルジ、腕の広がる円盤部分をディスクと呼ぶ。バルジには年老いた天体が多く、最近ではその中心部に巨大ブラックホールが存在するものも観測されている。また、腕の部分には星の生成物質となる星間ガスや比較的年齢の若い星たちが多い。
楕円銀河
見かけ上、楕円の形をしている銀河のこと。渦巻銀河のようなめだった構造は持たず、輝度分布もなめらかである。3次元的なイメージは卵型、あるいはミカン型のようなひしゃげた球体状の星の集まりで、星の運動もランダムである。星生成も低調で、渦巻銀河と好対照をなす。銀河団中の巨大楕円銀河は銀河衝突にともなう銀河の合体によって形成されたとする見方も有力である。
(ともに「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)