火星探査機MROがとらえた火星表面の傷、ひび、陥没

【2007年3月2日 HiRISE Operation Center (1)(2)

NASAの火星探査機マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)は、高解像度を誇るHiRISEカメラを通じて、火星のさまざまな表情を届けてくれている。その中から、火星の複雑な活動を物語る傷あとのような地形を紹介しよう。


(ボレアレス平原の画像)

ボレアレス平原。ダスト・デビルの通り道が傷跡のように残っている。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Univ. of Arizona)

(区切られたように見える地表面)

区切られたように見える地表面。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Univ. of Arizona)

1枚目の画像に写っているのは、火星の北極付近、「ボレアレス平原(Vastitas Borealis)」の一部で、およそ7キロメートル四方の領域。クレーターがあまり見られないことから、比較的最近作られた地形であると考えられる。とくに、表面の模様から推測する限り、気象が大きくかかわっているようだ。

まるでひっかき傷のように残されているのは、「ダスト・デビル(砂の悪魔)」と呼ばれる巨大な砂嵐が通過した跡だ。地表の空気が暖められて急上昇したときに発生する、竜巻に似た現象である。その爪あとは幅30メートル以上、長さ4キロメートル以上あり、地球でいう「砂嵐」をはるかに超える規模だとわかる。

この地形をさらに細かいスケールで見てみよう。2枚目の画像は横400メートル、縦250メートルほどの範囲を拡大したものだ。地面が直径10メートルほどの区画に分けられていて、場所によっては区切りにそって岩が並んでいる。こちらは、氷が作り出した地形らしい。似たような構造は地球の南極などに見られる。氷を含む土壌が気温の変化とともに収縮することでひびが入り、そこに砂や石などが入り込んで亀裂を広げ、こうした外見を作り出すのだ。


(トラクトゥス・カテナの画像)

地下空洞が陥没してできた「トラクトゥス・カテナ」。「カテナ」は「クレーター鎖」と呼ばれることもある。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Univ. of Arizona )

「トラクトゥス・カテナ(Tractus Catena)」をとらえたこちらの画像には、地下空洞の陥没によるくぼみが見られる。写された範囲は横7キロメートル、縦17キロメートル。これほど大きく陥没するような空洞は、なぜ作られたのだろう。

まず考えられるのは断層だ。断層というと、平らな割れ目に沿って岩盤がぴったりとくっついていた状態を想像するかもしれない。実際には、多くの断層面はでこぼこであり、岩盤がずれたときに空洞が生じることもあるのだ。

別の原因として、マグマも挙げられる。マグマは地下を流れるときに溶岩は地盤を押しのけるので、流れ去った跡に空洞が残るというわけだ。もっとも、マグマは断層に沿って地下を流れるのだから、要因は複合的かもしれない。

では画像中に証拠があるかというと、断層については存在する。そもそも、画像中に写っている段差は断層そのものなのだ。一方、マグマが地下を流れたのならどこかに吹き出し口があるはずだが画像中には見あたらない。もっとも、マグマが地下に残る場合もあるので、完全には否定できないようだ。