ジェットを噴き出すもっとも小さい天体
【2007年6月5日 ESO Press Releases】
木星の数十倍の質量しかない褐色矮星からジェットが噴き出していることが確認された。ジェットは恒星が誕生する現場でも見られる。恒星と褐色矮星の歩みは途中までは同じなのかもしれない。また、ジェットは超巨大ブラックホールでも見られる。ジェット放出はわりと普遍的なシステムなのかもしれない。
アイルランド・ダブリン高等研究所のEmma Whelan氏らの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLTを使い、褐色矮星「2MASS1207-3932」(2M1207)から吹き出すジェットを発見した。褐色矮星のジェットはひじょうにかすかだが、10億キロメートルもの距離にまで伸びており、物質が秒速数キロメートルのスピードで宇宙空間へ飛び出している。
褐色矮星とは、太陽のような恒星とは違い、質量が小さいため核融合反応を起こすことができず自ら光り輝くことのない、惑星と恒星の中間の天体だ。「2MASS1207-3932」は、われわれから約200光年の距離に存在する木星の24倍程度の質量の天体で、その周囲には円盤も見つかっている。
円盤といえば、生まれたばかりの恒星につきもので、地球を初めとした太陽系の惑星は、原始太陽を取り巻く円盤から生まれたことはよく知られている。褐色矮星にも円盤があるということは、恒星と褐色矮星が同じような過程で誕生したことを示唆する。そして、今回ジェットが見つかったことは、この仮説をさらに強く裏付ける。なぜなら、ジェットも生まれたての恒星に必ずと言っていいほど見られる現象だからだ。
ジェットは宇宙のさまざまな場面で見られる現象で、円盤とセットで存在することが多い。具体的にいえば、まず中心の重い天体に向かってガスが引き寄せられる。ガスは回転エネルギーを失いながら少しずつ落ち込むので、円盤を形成する。失われたエネルギーは熱や光として放出されるが、一部は円盤と垂直な方向にジェットを吹き出す原動力となるようだ。誕生したばかりの恒星に見つかることが多いジェットだが、もう1つ有名なのが系外銀河の中心で見つかるジェットだ。そこには太陽の1億倍にもおよぶ質量をもつ超巨大ブラックホールが存在しているとされる。
質量わずか木星の24倍(太陽の50分の1程度)の2MASS1207-3932は、今のところ宇宙最小のジェット放出源だ。このメカニズムはありとあらゆる質量の天体に対して効きうるのかもしれない。