天の川銀河で一番明るい星は、どっち?

【2008年7月23日 Spitzer Newsroom

圧倒的な明るさで輝く太陽も、恒星としては平凡だ。距離や星間物質の影響を差し引けば、宇宙は太陽の何万倍も明るい恒星であふれている。われわれの天の川銀河では、りゅうこつ座のη(エータ)星の明るさがナンバーワンと言われてきた。しかし、銀河の中心付近にはライバルが潜んでいるらしい。


(スピッツァーがとらえた「牡丹星雲」と中心星の写真)

スピッツァーがとらえた「牡丹星雲」と、その中心に潜むWR 102ka(白い円の中)。3種類の赤外線で撮影した疑似カラー画像。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/Potsdam Univ.)

いて座の方向約2万6000光年の距離にある恒星「WR 102ka」は、以前から存在は知られていたものの、その性質は文字どおりベールに包まれていた。ここは天の川銀河の中心付近で、大量のちりと星が集まっている領域だ。可視光はさえぎられてしまい、赤外線で観測しなければちりの向こうにある天体を調べるのは困難である。

ドイツの研究チームがNASAの赤外線天文衛星スピッツァーなどを使ってWR 102kaを調べたところ、実際に放っている光の量は太陽の320万倍にもなることがわかった。現在「天の川銀河で一番明るい星」と言われているりゅうこつ座のη星(ηカリーナ)は、約470万倍とされる。ただし、明るさを正確に求めるのは難しく、WR 102kaの場合、推計値には太陽の約200万〜500万倍と大きな幅がある。ひょっとすると両者は並んでいるかもしれないし、WR 102kaの方が明るい可能性もある。

「(WR 102kaは)実に目を引く星ですね。私たちが知る限り天の川銀河で2番目に明るいと思われる星が、銀河中心部の奥深くに存在しているのです」と語るのは、チームの主任研究員でポツダム大学のLidia Oskinova氏。「おそらく、さらに明るいとまではいかなくても、同じような明るさの星が、まだまだ隠されているのではないでしょうか」

明るいということは、大きいということだ。WR 102kaの場合、もともと質量は太陽の150〜200倍もあったのではないかと考えられている。猛烈な勢いでエネルギーを生産し、光だけでなく自身を構成していた物質をも外へ放出している。理論上は、そのまま分裂してしまってもおかしくない。現在残っている質量は不明である。

スピッツァーの画像では、WR 102kaを取り巻く星雲の存在が確認できる。その形状にちなんで、研究チームは「牡丹星雲」というニックネームをつけた。WR 102kaが放出したちりで作られたのだと考えられている。大きさといい、物質を放出して星雲を形成していることといい、ライバルのηカリーナとそっくりだ。

さて、大きいということは、寿命も短いということになる。質量が大きな恒星ほど速いペースで燃料を消費してしまうからだ。巨大な恒星の最期には超新星爆発が待っている。Oskinova氏らによれば、WR 102kaは爆発寸前であるようだ。天文学的な「寸前」とは、今すぐかもしれないし、数百万年後のことかもしれない。そのときは、ちりによる減光がなければ、見た目にも太陽に次いで明るい星となるだろう。