ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた星の航跡
【2009年1月13日 HubbleSite】
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえた画像に、星間ガスの雲の中を高速で移動する星が複数発見された。星からの強い恒星風がまわりのガスに衝突して、矢じりや三日月のような形をした衝撃波をつくっている。
HSTの画像から、星間ガスの中を突き進んで軌跡を残した14個の星が見つかった。星の年齢は数百万歳ほどで、質量は最大で太陽質量の8倍ほどと考えられている。
矢じりや三日月のような形をした構造は、星から吹く強い恒星風が星間ガスに衝突してできた衝撃波(バウ・ショック)である。船が水を切って進む時にも、同様の三日月形をした衝撃波ができる。バウ・ショックの幅は、海王星軌道の17〜170倍と考えられている。
バウ・ショックの分析から、星は時速18万km以上の高速で移動しており、これまでに約160光年の距離を旅してきたと考えられている。星たちは、大きな星団で誕生し、その後に起きた爆発ではじき飛ばされてしまったようだ。
星をはじき飛ばした爆発としては、2種類が考えられている。1つは、連星系で一方の星が超新星爆発を起こして、伴星が吹き飛ばされたという場合。もう1つは、2つの連星系どうしの衝突、またはある1つの連星系が単独の星と衝突したという場合である。
このような高速で移動する星はずっと以前から知られていた。たとえば、有名な「ぎょしゃ座 AE 」と「はと座μ」は、M42付近から同時期に飛び出した星だろうということが、1950年代の研究ですでに推定されていた。
その後1983年に世界初の赤外線天文衛星IRASが打ち上げられ、特徴的な形を持つ天体がいくつか見つかった。これらの天体は1980年代後半になって詳しく観測され、恒星がバウ・ショックを伴って高速移動している姿であることが明らかになった。その際見られたバウ・ショックは、今回HSTの画像に発見された星のものよりも、はるかに大きかった。大きさの違いは、星の質量と恒星風の強さによると考えられている。
こうした星がどこで見つかるかは予想がつかない。今回見つかったのも、別の目的で撮影された画像の中からだ。天体を発見した研究チームを率いたNASA のジェット推進研究所のRaghvemdra Sahai氏は、今後星が周囲に及ぼす影響などを明らかにする予定だ。