小さな星に生命の材料はあるか
【2009年4月10日 Spitzer Newsroom】
恒星の多くは、太陽よりも小さくて表面温度が低いが、そのまわりを回る惑星に生命は見つかるだろうか? NASAの赤外線天文衛星スピッツァーを使った最新の観測成果によれば、地球と似た生命がいる可能性は低い。材料がないからだ。
地球上の生命は、さまざまな化学物質が溶け込んだ高温の「スープ」から誕生したと言われている。同じようなシナリオは太陽以外の恒星のまわりを回る惑星で起きうるだろうか? とくに注目されるのは、M型矮星や褐色矮星といった宇宙の小さな多数派だ。M型矮星は質量が太陽よりも小さくて表面温度が低い、赤く輝く恒星で、褐色矮星は恒星として輝くほどの質量がなく、余熱でおもに赤外線を放射している天体である。
最近、M型矮星のまわりに、質量が地球の数倍しかない「スーパーアース」と呼ばれる惑星が見つかりはじめている。表面は固体であると考えられ、恒星からの距離が適切であれば液体の水が存在するかもしれない。あとは、そこに適当な材料が溶けていればよいわけだ。
ところが、肝心の「スープの素」がないかもしれない。米・ジョンホプキンス大学のIlaria Pascucci氏らの研究チームは、「シアン化水素」が太陽のような恒星のまわりでは見つかるが、低温星では見つからないことを突きとめた。シアン化水素はDNAを構成する塩基のひとつ、アデニンの原料である。地球にすむ生物のような生命の原材料としてなくてはならない物質だ。
研究チームは、スピッツァーの赤外線分光器で、太陽程度の質量の恒星を44個、低温星であるM型矮星と褐色矮星を17個観測した。いずれも誕生してから100万から300万年ほどの星で、ちりとガスの円盤が残っており、惑星の形成が進んでいる可能性がある。
その結果、シアン化水素に特有の赤外線が太陽に近い恒星の30パーセントで検出された一方、低温星からは見つけることができなかった。比較のために測定された「アセチレン」と呼ばれる分子の赤外線は、いずれの星でも検出されている。
その理由についてPascucci氏は「おそらく、太陽のような星のまわりでは、紫外線が強いために、シアン化水素の生成が進むのでしょう」と話している。