矮新星ペルセウス座GKが増光

【2010年4月8日 アストロアーツ】

ペルセウス座GKは、新星爆発と数年おきの矮新星増光の両方の現象を起こしたことのある珍しい天体だ。そのペルセウス座GKの増光が3月6日に発見された。その後の観測で11.8等(V等級)まで増光したとみられており、口径10cm程度の望遠鏡があれば観測することができる。今後の変化に注目したい。


文:京都大学花山天文台 前原裕之さん

(増光中のペルセウス座GKの画像)

増光中のペルセウス座GK(3月19日撮影、数字は星の等級)。クリックで拡大(提供:ダイニックアストロパーク天究館 高橋進氏、以下同)

(2006〜2010年のペルセウス座GKの光度曲線)

VSNETに報告されたデータから作成した2006〜2010年のペルセウス座GKの光度曲線。クリックで拡大

ペルセウス座でもっとも明るい星は2等星のミルファク(Mirfak)ですが、1901年に、T.D.アンダーソンによって発見されたペルセウス座新星は、もっとも明るい時で0等級まで明るくなったことが記録されています。普段13等ほどのこの天体は、過去の明るい新星としてだけでなく、数年おきに10〜11等まで明るくなる矮新星増光を示す天体としても有名で、新星と矮新星の2つの増光現象を示したことがある珍しい天体です。そのペルセウス座GKが2008年9月以来の矮新星増光を起こしています。

1901年2月21日、アンダーソンはペルセウス座に見なれない明るさ3等ほどの天体を発見しました。この天体は後にペルセウス座GKと呼ばれるようになるペルセウス座新星1901で、発見後さらに増光し、2日後の23日には0等まで明るくなった後、ゆっくり暗くなりました。1916年ごろにおよそ15等まで暗くなったあとは12〜14等の間を変光していましたが、1940年代ごろには13等でほぼ一定の明るさになり、1948年以後は数年おきに10〜11等まで増光するようになりました。

この天体のような新星の多くは、白色矮星と温度の低い主系列星の連星系で、主系列星は星の重力と公転による遠心力などの効果を考慮した時の重力圏(ロッシュローブ)を満たしており、主系列星から白色矮星にガスが流れ込んでいます。主系列星から流れ込んだガスは、すぐに白色矮星の表面に積もるかというと、必ずしもそうではありません。流れ込んだガスによって、白色矮星の周りにガスの円盤が形成され、この円盤(降着円盤と呼ばれる)を経由して白色矮星の表面にガスが積もると考えられています。

白色矮星の表面に積もった水素ガスが臨界量を越えると、核反応が暴走的に起こり、表層のガスを吹き飛ばし、ひじょうに明るくなります。これは新星爆発と呼ばれる現象で、1901年にアンダーソンが発見したタイプの増光はこの現象に対応します。典型的な新星の場合は元の明るさよりも10〜15等も明るくなります。普通の新星では一度爆発してから再びガスがじゅうぶん積もって爆発するまでには数万年オーダーの時間がかかると考えられています。中には十年ほどで新星爆発を繰り返すさそり座U(参照:アストロアーツニュース「反復新星さそり座Uが11年ぶりに爆発」)のような反復新星と呼ばれる天体もあります。

主系列星から降ってくるガスの量が少ないと、降着円盤を通じて白色矮星に落ちるガスの量が普段はひじょうに少ないためガスが円盤に溜っていき、ガスがじゅうぶん溜まって降着円盤の密度がある臨界値を越えたところで一気に円盤から白色矮星に落ちる、という現象が起きるようになります。円盤の中のガスが落ちる時には、もともとガスの持っていた位置エネルギーの一部が熱エネルギーとして解放されるため、それまで暗かった円盤が明るく輝きます。このように、普段はガスをためてある程度溜まったら一気に落とすという、まるで「ししおどし」のような現象によって、矮新星は突然明るくなると考えられており、そのメカニズムの解明には日本の研究者による多大な貢献がありました。典型的な矮新星では普段の明るさよりも3〜5等程度明るくなり、ペルセウス座GKで数年おきに観測される小規模な増光は通常の矮新星増光と同じ現象です。

ペルセウス座GKは1901年の新星爆発と、数年おきの矮新星増光の両方の現象が観測された珍しい天体で、この天体の他には1876年に新星爆発を起こしたはくちょう座Qや、1960年に爆発したヘルクレス座V446、1903年のへび座新星で昨年8月に初めて矮新星増光を起こすことが判明したへび座Xなどが知られています。また、新星爆発が直接観測されたわけではありませんが、矮新星のきりん座Zには、紫外線天文衛星GALEXの観測から過去の新星爆発によって周辺に飛び散ったガスが発見されています(参照:アストロアーツニュース「白色矮星の「小さな爆発」が「大きな爆発」とつながった」、「「2種類の爆発を繰り返す星」きりん座Zを見てみよう」)。

これまで観測された典型的な増光では、1か月ほどかけてゆっくり増光し、もっとも明るくなると10等ほどになり、その後やはり1か月ほどかけてもとの13等まで暗くなります。しかし近年の増光ではやや異なった変化を示しており、2006年12月の増光では11等半ばまで増光した後、複数回の増減光を示しました。また、2008年9月の増光(参照:アストロアーツニュース:「ペルセウス座GKの2年ぶりの増光」)では11等後半までしか増光せず、増光期間も全体で1か月ほどでした。今回の増光は3月6日に発見され、筆者の3月19日の観測ではV等級で11.8等まで増光しており、眼視的には10cm程度の望遠鏡があれば観測できるでしょう。今後どのような変化を示すのか、たいへんに興味深いところです。観測用の周辺の星の明るさが入った星図は、日本変光星研究会のWebページアメリカ変光星観測者協会(AAVSO)のWebページなどから入手することができます。