天文衛星「ハーシェル」が明かした、星の誕生現場

【2010年5月11日 ESA

ESAの赤外線天文衛星「ハーシェル」が、形成の初期段階にある大質量星の存在を明らかにした。この星は数十万年のうちに天の川銀河の中で最大級クラスの星に成長すると考えられている。また、星の原材料であるガスやちりが網の目のような繊維状構造に集まり、その構造が分裂して星を生み出す塊となっているようすなども見せてくれている。


(ハーシェルによるRCW 120の画像)

HII領域RCW 120。クリックで拡大(提供:ESA/PACS/SPIRE/HOBYS Consortia)

(星の原材料となるガスなどの物質をとらえた画像)

天の川銀河の、こぎつね座の方向をとらえた画像。星の原材料が広がっている。クリックで拡大(提供:ESA/Hi-GAL Consortium)

ハーシェルは、「RCW 120」と呼ばれるHII領域(電離した水素ガスが輝いている領域)を観測し、大質量星へと成長すると思われる幼い星の存在を明らかにした。

この星の質量はすでに太陽の8倍から10倍あり、周囲には太陽2,000個分ほどに相当する大量のちりやガスが存在している。星はそこから材料を得て、今後数十万年のうちには天の川銀河内で最大級クラスの星に成長すると考えられている。

大質量星の一生は短く、形成が始まって間もない星の観測は貴重なデータを提供してくれる。というのも、質量が太陽の8倍以上の星の形成過程についてはよくわかっていないのである。質量の大きな星が放つ強い放射によって周囲のガスやちりが吹き飛ばされてしまい、それ以上星へ降り積もることはできないと考えられているからだ。そう考えられているにもかかわらず、太陽の8倍以上の質量を持つ星は、低質量星に比べて数は少ないものの実際にこれまで多数観測されていて、最大のものは太陽の150倍ほどもある。

RCW 120以外にも、ハーシェルは数多くの星のゆりかごを観測した。その結果、天の川銀河内に広がる星の材料から星が誕生するまでのプロセスがわかってきた。まず星を生み出すガスの塊が、ガスやちりからなる繊維状の構造内に現れること、さらにそれが長さ数十光年ほどの長さに連なっているようすがとらえられたのである。

2枚目の画像中、全体に広がっているのがその繊維状の構造である。この繊維状構造に物質が集まり、ガスやちりが低温で高密度になると、場所ごとの重力で繊維状の構造が分裂して星を生み出すガスの塊の連なりができる。さらに、ガスの塊が自己重力で崩壊すると、そこに星が誕生するのである。