天文衛星ハーシェルが隠れた能力発揮、遠方銀河の重力レンズ像を複数発見
【2010年11月8日 JPL】
ESAの赤外線天文衛星ハーシェルによるサーベイ「Herschel-ATLAS」の画像から、銀河の重力レンズ像が5つ発見された。今回調べられた画像はサーベイ全体の2パーセントにしか当たらない。今後より多くの画像が調べられれば、新たに数百にものぼる重力レンズ像が発見されるかもしれない。
重力レンズ効果とは、巨大な銀河や銀河団などの重力が宇宙に浮かぶレンズとして働いて、その背後にある遠方の天体からの光が曲げられ、拡大や変形、増光されて見える現象だ。拡大や増光のおかげで、ひじょうに遠くにある銀河を研究することができる。
カリフォルニア大学アーバイン校のAsantha Cooray氏らの研究チームは、ハーシェルが赤外線とサブミリ波の波長でとらえた数千個もの銀河をとらえた画像を詳しく調べ、これまで未発見だった5つの銀河がとても明るく輝いていることに気がついた。
新たに発見された銀河が重力レンズ効果を受けているかどうかについてはすぐに判断することができなかったため、ケック天文台による可視光観測が行われた。その結果、ハーシェルでは検出できなかった手前にある銀河がとらえられたのである。
そのほかにも複数の地上からの確認観測が行われ、明るい5つの銀河すべてが、その手前にある銀河の重力によって拡大された像であることが明らかになった。5つの銀河は、137億歳といわれているこの宇宙が20億歳から40億歳ころに相当する遠方宇宙に存在していることがわかった。銀河はいずれも若く、多くのちりと生まれたばかりの星にあふれている。ちりはとても厚く、可視光で直接その姿をとらえることはできないが、かすかな熱を放射している。ハーシェルはその熱を遠赤外線やサブミリ波の波長で検出したのである。
画像は、ハーシェルによって発見された5つの銀河の重力レンズ像のうちの1つ(SDP 81)をとらえたものだ。左側の画像の中央に見えている黄色い点がハーシェルがとらえたもの。右側は地上に設置された望遠鏡による観測で得られたデータを重ね合わせたもので、ピンク色の染みのように見えているのが、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター サブミリ波干渉計がとらえた重力レンズ像である。
ハーシェルにたずさわる研究者は、今回の発見はほんの一部に過ぎないのではないかと考えている。というのも、調べられた画像は、ハーシェルによる「Herschel-ATLAS」サーベイのまだ2パーセントにしか当たらないからだ。
NASAのジェット推進研究所でハーシェルのプロジェクト・サイエンティストであるPaul Goldsmith氏は「ハーシェルのチームが5つの銀河の重力レンズ像を見つけたことは実にエキサイティングです。ひょっとすると、今後ハーシェルのデータから数百個もの新たな重力レンズ像が発見されるかもしれません」と話している。