土星の衛星レアに大気を検出
【2010年12月2日 NASA】
NASAの土星探査機カッシーニが土星の衛星レアにひじょうに薄い大気の層を検出した。酸素の密度は地球の5兆分の1ほどと見積もられているが、月や水星の大気の100倍以上になる可能性もあるようだ。
NASAの土星探査機カッシーニによる観測で、土星の衛星レアに酸素と二酸化炭素から成る大気の層が検出された。大気はひじょうに薄いものだが、地球以外で酸素の分子が探査機によって直接とらえられたのは、これが初めてのことである。
酸素は、土星の磁場がレアの上で回転する際に発生していると考えられている。そのメカニズムは、惑星の磁場にとらえられたエネルギーの高い粒子が、衛星を覆っている水の氷の上に降り注ぐことによって、化学反応が起こって表面の物質が分解され酸素が放出されるというものだ。
一方、二酸化炭素の起源はまだよくわかっていないが、彗星と同様に、原始の太陽系から「ドライアイス」がとらえられてできたのかもしれない。あるいは、酸素の場合と同様のプロセスが、レアの水の氷の中にある有機分子に働いたのかもしれない。または、炭素を豊富に含む隕石がレアの表面に衝突したためかもしれない。
レアの表面にある酸素の密度は、地球の5兆分の1ほどと見積もられている。しかし、衛星の表面で起こる分解は大量の酸素分子を発生させることができるはずで、地球の衛星である月や水星の大気の100倍以上の密度を持った層となる可能性があるという。
また、酸素と二酸化炭素の生成によって、凍った天体上でさらに複雑な化学変化が引き起こされるかもしれない。カッシーニのチーム・サイエンティストで、米・サウスウエスト研究所のBen Teolis氏は「最新の研究成果によって、酸素が関与する活発で複雑な化学的プロセスが太陽系内では日常的に起こっている可能性が示されました。それは生命誕生にとっての必須条件です」と話している。
表面照射を通じて酸素が放出されるということは、表面が凍っていて地下に液体の水が存在する天体上では生命にとって好ましい環境がつくられる可能性があることを示唆していると、Teolis氏は語っている。表面にある酸素と二酸化炭素が、なんらかの方法で地下の海に移動すれば、より複雑な化合物ができたり、生命誕生にはるかにふさわしい環境がもたらされたりするだろう。
酸素と二酸化炭素から成る薄い大気を持つ衛星は、土星系ではレアが唯一である。たとえば、衛星タイタンは、窒素とメタンの厚い大気に覆われているが、そこに二酸化炭素と酸素はほとんど存在しないに等しい。カッシーニのプロジェクト・サイエンティストをつとめる、NASAジェット推進研究所のLinda Spilker氏は「レアは、これまでの想像をはるかに超えて興味深い存在となりました。カッシーニによる発見は、土星の衛星の多様性に光を当て、それらの天体の形成や進化に関する手がかりを与えてくれます」と話している。
なお、これまでレアには、酸素と二酸化炭素から成る薄い大気が存在するのではないと推測されてきた。それは、NASAの探査機ガリレオやハッブル宇宙望遠鏡(HST)などによる観測で、レアから逃げ出す酸素が検出されていたためである。そのほか、カッシーニによる観測でも、大量の紫外線が降り注いだ後、土星を取り巻く環の粒子から逃げ出す酸素が検出されていた。カッシーニは今回、レアから101kmの距離にまで接近・通過することで、酸素と二酸化炭を直接検出することに成功した。