すばる望遠鏡、爆発的な星形成をする「ロゼッタストーン」銀河団を発見

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【2011年2月4日 すばる望遠鏡

こぎつね座の一角に、非常に激しい勢いで星形成をする銀河の集団が発見された。現在の銀河団の種に相当するこの銀河集団は約110億光年のかなたにあり、宇宙の育ち盛りの時代にある活発な銀河のようすをかいま見せてくれる貴重な例となりそうだ。


(原始銀河団領域の画像)

すばる望遠鏡の「MOIRCS」で撮影した原始銀河団領域。赤い四角で示した緑色の天体がHα輝線天体。クリックで拡大(提供:国立天文台)

国立天文台、愛媛大学、東北大学、ヨーロッパ南天天文台、マックスプランク研究所等の研究者からなる国際研究チームは、こぎつね座の一角に、非常に激しい勢いで星形成をする銀河の集団を発見した。この銀河は約110億光年かなたにあり、137億年前の誕生から27億年経った、育ちざかりの宇宙における原始銀河団の姿だ。

銀河内でどれだけ星が生まれているかのバロメータとして、光のスペクトルに見られる「Hα輝線」が使われる。「Hα輝線」とは、星の材料となる電離水素によって放たれる光だ。だが、遠く離れた銀河からの光は波長が伸びてしまうので(※注)、ゴムにペンでつけた印が引っ張られると移動するように、112億光年以上かなたの銀河から放たれたHα輝線は地上で検出できる範囲の外にシフトしてしまう。これ以上遠い銀河での星形成を調べるためには「ライマンα輝線」などの紫外線域が使われる。これらはHα輝線とは逆に、100億光年以上の銀河からやってくる光でないと地上での検出ができない。

この「紫外線で見る宇宙」と「Hα輝線で見る宇宙」の両方を繋ぐためには、両方の情報を見ながら相互の情報を使いつつ正しい宇宙の姿を考えていく事が不可欠となる。そこで、100億年〜110億光年先の銀河――つまり100億〜110億年の時を経て、「Hα輝線」と「ライマンα輝線」の両方が検出可能な範囲に収まるようにちょうどよく伸びた光――の観測が重要なカギとなってくるのだ。

銀河進化の研究に重要なこの時代における原始銀河団はまだ数例しか見つかっておらず、地上からHα輝線を用いた観測ができる原始銀河団としては、最も遠いものになる。

この原始銀河団は、NASAの赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」がとらえた中間赤外線天体を、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置(MOIRCS:モアックス)で得られたHα輝線のデータと合わせることにより確認されたものだ。そこから導き出される原始銀河団の姿は極めて特異なものだった。

「Hα輝線を出している銀河団銀河は、現在の銀河団のスケールと同等な、半径400万光年の領域にまとまって存在していました。しかし、Hα輝線銀河は既に我々の銀河系並みの質量を持っており、そこで毎年太陽を何百個も作り出せるほどに活発な星形成をしている事が、Hα輝線からも中間赤外線からも示されていました。近傍宇宙では、これほどに活発な星形成をする銀河が同じ領域内に存在する確率は、ほぼゼロと言っても良いでしょう。さらに、中間赤外線データに見られる天体の明るさは、Hαで観測された輝線天体の数だけでは説明できない事も分かりました。つまり、ダストの雲の奥底に非常に深く隠されてHαデータでさえ見えない、爆発的な星形成をしている銀河が、この領域にはまだいる事を示しています」(MOIRCSサポート研究者 田中壱さん)。

この頃の原始銀河団は、現在ある巨大銀河団の形成の黎明期の姿をとらえていると考えられるが、まだ片手で数えられる程度しか見つかっていない。今回発見された銀河団は、銀河の形成進化とその環境との関係を理解するための「ロゼッタストーン」として、すばる望遠鏡や次世代巨大電波望遠鏡であるALMA等によりさらに詳細な研究が進められていくことだろう。

※注:天体が観測者から遠ざかっている場合に天体から発せられる光の波長がドップラー効果により長波長側に伸びることを赤方偏移という。宇宙膨張により遠くにある天体ほど早く遠ざかっていることが知られているために、赤方偏移は天体までの距離の指標としても使われる。