発見相次ぐ、100億年前の銀河団
【2006年6月13日 JPL Features / XMM Cluster Survey】
初期の銀河がさかんに探される一方で、さらに一段階上の構造である銀河団(解説参照)を、時間をさかのぼって観測しようという試みも行われている。最近、宇宙年齢が今の4分の1程度だった約100億年前の銀河団が相次いで見つかっている。NASAの赤外線天文衛星スピッツァーはそうした銀河団を100個近く見つけた。また、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線衛星XMM-ニュートンによる観測では、当時の銀河団がすでに巨大な質量を持っていたことがわかった。
100億年前の「巨大都市」
「まるでローマ帝国が最盛期にあった頃のローマの姿を写真に収めているようなものです」と語るのは、NASAのジェット推進研究所(JPL)のMark Brodwin博士。彼がアメリカ天文学会で公表した写真に写っているのは、ローマ時代の500万倍以上も昔で、とてつもない規模の銀河の「都市」だ。Brodwin博士らの研究チームは赤外線天文衛星スピッツァーを使って、はるかかなたの銀河団を追い求めている。
博士らは昨年12月と今年3月にも、それぞれ91億光年と82億光年の距離にある銀河団を発見したと報告している。今回、290個の新しい銀河団(そのうちいくつかは「銀河群」に分類されるような小規模なものである)の存在を発表したが、そのうち100個近くが、80〜100億年前のものだった。これにより、現在知られている遠方銀河団の数は一気に6倍に増えた。
チームが語る発見の鍵は、宇宙からの赤外線観測と地上からの可視光観測の連携だ。遠方の銀河団は、赤外線による観測でその姿は浮かび上がるものの、そのままでは手前に存在する銀河と区別ができない。そこで、近い銀河ばかりを写すアメリカのキットピーク国立天文台の画像と合成することで、遠方の銀河団を独立した存在として識別することが可能となったのだ。
さらに、ハワイ・マウナケアのケック天文台からのデータを用いて、7個の銀河団について地球からの距離が求まっている。今後は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)も動員して詳しい観測が行われる予定だ。特に関心が持たれているのは、「これらの都市(銀河団)はどれほどの規模(質量と銀河の数)を持つのか」、そして「どうやって成長したのか」という2つのテーマだ。100億年前の「大帝国」は今あるわれわれの銀河や銀河団のルーツとも言えるだけに、今後の成果が期待される。
銀河団は予想以上に早熟
銀河団の質量を見積もる方法の1つは、銀河の集団をとりまくガスが放射する電磁波を測定することだ。高温に加熱されたガスはX線で輝き、赤方偏移を経た後もX線として観測される。米、欧、チリの研究者から成るXMM銀河団サーベイチーム(XCS)は、X線観測衛星XMM-ニュートンを使って遠方の銀河団の捜索と測定を行っている。
XCSが見つけた銀河団、XMM-XCS 2215-1734もX線で輝いていた。ケック天文台からの観測では約100億光年先にあることがわかったが、多くの天文学者にとって驚きだったのはその大きさだ。XMM-XCS 2215-1734を包むガスは1000万度もの高温で、銀河団全体で太陽の500兆倍もの質量を持つと計算されたのである。
銀河団は、より小さな銀河群どうしの合体を通じて成長すると考えられているが、このプロセスには時間がかかる。宇宙年齢が現在の4分の1という、ごく早い段階でXMM-XCS 2215-1734のように巨大な銀河団が存在するには、宇宙がダークエネルギー(観測することができない形態のエネルギー)で満たされた「平坦」なものでなければならないという。
XCSは今後も次々と銀河団を見つけたいとしているが、一方でXMM-XCS 2215-1734の研究も進められている。この銀河団は宇宙の初期について知る上での貴重な「化石」であり、すでにHSTをはじめとしたあらゆる機器が観測に動員されているとのことだ。
銀河団
銀河群より大規模な恒星の集団を銀河団と呼ぶ。直径数千万光年の空間に数百〜数千個オーダーの銀河が集まっている。銀河系にもっとも近い銀河団は「おとめ座銀河団」で、1000個以上の銀河が集まっている。私たちの局部銀河群を含めた局部超銀河団の中心に位置し、局部銀河群は「おとめ座銀河団」方向へ引きつけられていることも観測されている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)