M82の銀河風の起源、すばる望遠鏡で解明
【2011年3月8日 すばる望遠鏡】
銀河面と垂直に吹く「赤い銀河風」でおなじみの銀河M82。すばる望遠鏡がとらえた銀河中心部のシャープな赤外線像で、複数の若い星団から銀河風が生じている様子が明らかになった。
おおぐま座の方向約1200万光年の距離にある爆発的星生成銀河(注)M82は、銀河面と垂直に吹くガスとダスト(塵)の強い流れである「銀河風」で知られている(1枚目の画像)。この銀河風はどこからどのように吹き出しているのだろうか。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所のガンディー・ポシャクさんらの研究グループが、米・ハワイにある「すばる望遠鏡」でM82銀河の中心部の星生成領域を詳しく観測したところ、複数の星団から吹き出したものが合わさって銀河風ができていることが観測的に明確になった。
すばる望遠鏡に搭載された冷却中間赤外線撮像分光装置(COMICS)を用いて星生成領域の温かいダストからの赤外線放射をとらえた中間赤外線像は、既存の望遠鏡で得られる中で最もシャープなものだ(2枚目の画像)。2枚目の画像上段はすばる望遠鏡が見たM82の中心部で、何百光年もの広い範囲に明るく光る領域が複数見える。この明るい領域がそれぞれ若い星団に対応し、星々によって温められたダスト(絶対温度160度=摂氏マイナス113度程度)が中間赤外線で明るく輝いている。また、それらから伸びる流れも見える。「この流れこそが銀河風の根元に違いありません」(ダブリン高等研究所シュレディンガーフェロー馬場彩さん)。
それ以外にも、他の波長の観測データとの比較により興味深いことがわかった。3枚目の画像は3つの望遠鏡によるデータを合成した擬似カラー画像で、それぞれの色の意味は以下のようになっている。
- 赤:すばる望遠鏡による中間赤外線像。星生成によって温められたダストからの放射をとらえ、激しい星生成活動が生じている部分を表す。
- 緑:ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線像。可視光線でも存在が確認できる星の位置を表す。
- 青:チャンドラX線天文衛星によるX線像。きわめて高温なガスからの放射に対応する。
それぞれの色の濃淡がかならずしも一致していないことから、M82中心部では星からの放射が見られない場所でも激しい星生成活動が生じ、中間赤外線では明るく輝いているということがわかったのだ。
M82の中心部に超巨大ブラックホールが存在するかどうかという議論があるが、チャンドラのX線観測と今回の中間赤外線観測からは見つからなかった。研究グループでは「まだ中心部に潜んでいる可能性はあり、その検証が今後の課題」とさらなる追求に意欲を見せている。
注:「爆発的星生成銀河」 星々が非常に活発に生まれている、「ベビーブーム」状態の銀河