月の珍しい火山活動
【2011年7月28日 NASA】
月の裏側にあるトリウムが非常に豊富な領域は、どうやら表側とは違う火山活動によってできたことがわかった。ルナー・リコナサンス・オービターが撮影した詳細な画像と組成マップを利用することで判明したものだ。
月の火山活動を調べるには、月面の元素の組成からマグマの種類を調べるという方法がある。特に放射性同位体元素であるウランやトリウムなどは日本の月探査衛星「かぐや」によって全球のマップが取得されるなど、研究が進められてきた(2010/11/02「「かぐや」、世界で初めて月面上のウラン濃度分布を明らかに」参照)。
コンプトン・ベルコビッチ地域は月の裏側では非常に珍しいことに、トリウムが多く存在している領域である。トリウムは岩石の中でも溶けたマグマに集まりやすく、最後までとけ残ったマグマが月面に出てくることでトリウムの濃い領域が形成されると考えられる。このコンプトン・ベルコビッチ地域は火山活動によって作られたと考えられてきたが、これまでの画像の解像度ではその正体が何かよくわかっていなかった。
NASAの月探査機「ルナー・リコナサンス・オービター」の狭角カメラ(NAC)により、非常に高解像度な画像が取得され、3次元の地形図が作られた。この地形図から多くの溶岩ドームやカルデラのようなものが見つかり、火山活動でできたものであることが確かめられた。
また、表面の組成を調べることができるディバイナー月放射計で調べたところ、このコンプトン・ベルコビッチ地域にはトリウム、シリカおよびアルカリ長石鉱物が多く含まれていた。これは溶岩が組成的に「進化」したものであり、月のマグマで形成されている「海」を構成する玄武岩とは組成が全く異なっていることを示唆している。
月の表側にもこのようにシリカに富んだ火山が見つかっていたが、月の裏側では初めてのことである。また周辺にはクレーターがあまり見られないことから、コンプトン・ベルコビッチ地域は表側に見られる同じような地域と比較しても、もっと最近にできたものではないかと考えられている。
火山活動はその天体の内部の状態と密接に結びついている。今年の終わりには月重力場を測定するNASAの探査機「グレイル」のミッションが始まるため、グレイルの成果によって月の火山の歴史がより詳しくわかるかもしれない。